地域がん診療連携拠点病院の恵佑会札幌病院が新築移転
診断から治療、緩和ケアまで新時代に 合わせレベルアップ

2021年10月号

「今後は人材などソフトの充実をいっそう図る」と鈴木理事長

(すずき・やすひろ)1954年千葉県野田市出身。80 年北大医学部卒業。北大第2外科教室を経て米国・フィラデルフィアのハーネマン医科大学留学。新日鐵室蘭総合病院(現・製鉄記念室蘭病院)を経て2007年から恵佑会札幌病院副院長。20年理事長就任。日本外科学会指導医・専門医・認定医、呼吸器外科専門医合同委員会呼吸器外科専門医、日本乳癌学会乳腺指導医・専門医

Medical Report

消化器系などのがん治療で40年の実績を持つ社会医療法人恵佑会(鈴木康弘理事長)が運営する恵佑会札幌病院(229 床)が8月1日、白石区本通9に新築移転オープンした。これまで厚労省が認可する地域がん診療連携拠点病院として活躍してきた同病院では、今回の新築移転で診断・治療・緩和ケアの内容を新しい時代にマッチさせるため大幅にレベルアップ。外来化学療法を効率よく行なうためのオンコロジーセンターや緩和ケア外来を新設し、患者の生活を支え地域医療に貢献する病院づくりを目指す。「患者目線の医療を徹底的に追求していきたい」と語る鈴木理事長に、新病院の概要と意気込みを訊いた。(8月19日取材)

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

40年目のリニューアル

 
 恵佑会札幌病院は、食道がん治療の名医として知られる細川正夫医師(現会長)が悪性腫瘍(がん)の診断・治療・末期医療を一貫して行なうことを目標に1981年に白石区本通14丁目北に開院した歴史を持つ。
 2000年の緩和ケア病棟の開設を機に末期がん治療の取り組みも強化し、09年4月には地域がん診療連携拠点病院、10年9月に社会医療法人の認可を受けた。
 この中で施設の老朽化を踏まえ、医療機関として新しい時代の医療ニーズに応えるべく現在地への新築移転を決めた経緯がある。
 このほど白石区本通9で新装オープンした恵佑会札幌病院は鉄骨造の地上7階建て。国道12号線に近く市営地下鉄東西線南郷7丁目から徒歩10分というアクセスの良さを誇る。施設内は廊下を広く取った明るく開放的なレイアウトで、使い勝手の良さと快適性を備えている。
 1階には患者サロン、休憩室、図書コーナーなどの憩いの空間を開設。その向かいには看護相談、栄養指導、リハビリ、リンパ浮腫ケア、訪問看護、居宅介護などのブースを設けるなど入退院前後の多職種協働を視野に入れた工夫をしている。2階には各種外来診察室、内視鏡センター、透析センター、オンコロジーセンターを開設。中でも新設したオンコロジーセンターは、疾患の部位にかかわらず通院で化学療法を続ける患者に対応する外来部門として期待を集めている。
 このオンコロジーセンターについて鈴木康弘理事長は、「外来に通って化学療法を受けている患者さんは非常に多く、旧病院では内科の外来で診察してから別室で点滴を行なっていました。今回のセンター化で、さまざまな患者さんが化学療法を効率よく受けることができるようになった。民間のがん拠点病院でそうした部門を明確化することは、患者さんにとって大きな朗報になると思います」と力を込める。
 これまで同病院では緩和ケア病床も運営してきたが、移転にあたり緩和ケア外来ブースを新設したのも大きなトピックのひとつ。がんの治療では、手術や化学療法などで痛みや吐き気、倦怠感などを含む心身の辛さに直面するが、緩和ケア外来があれば通院で治療を続けながら疼痛管理などさまざまな辛さを和らげることができる。
 3階には手術室、ICU(6床)、管理部門の医局を配置。手術室は以前の8室から12室に増やし、このうち2室は新型コロナに感染した疑いのある患者などの緊急手術に対応するため陰圧室にしている。4階から6階は病棟で病床数は229床。このうち緩和ケア病棟の20床(4階)は患者のプライバシーを保つため全室個室にしている。
 新型コロナの感染症対策としては1階の患者サロンの一部を一時的に感染症対策室と発熱外来に転用。さらに、緊急入院・手術の際の感染検査では抗原検査のほかに必要に応じて緊急用のPCR検査ができる体制も取っている。コロナ患者の受け入れ病床は陽性4床と疑似陽性4床の計8床。発熱外来は院内のほかに、院外にもプレハブ施設を設け、電子カルテは双方で使えるようにした。
「新型コロナウイルスの蔓延は医療機関に大きなダメージを与えましたが、見方を変えると感染症の勉強となり対策が取れるようになった。新病院は感染症対策を一層強化した新しいタイプの施設となっています」(鈴木理事長・以下同)
 

新時代に向けて移転オープンした恵佑会札幌病院(札幌市白石区)

広々とした患者サロン(1階)

外来化学療法の拠点であるオンコロジーセンター(2階)

恵佑会の基礎を築いた細川会長

新時代に向けて移転オープンした恵佑会札幌病院(札幌市白石区)

広々とした患者サロン(1階)

外来化学療法の拠点であるオンコロジーセンター(2階)

恵佑会の基礎を築いた細川会長

 
増加する治療ニーズに対応

 
 がん治療の根幹は早期発見、早期治療に尽きる。同院ではがん治療の三本柱のひとつである放射線治療にも力を入れてきたが、新病院では医師が専門性を発揮できる環境整備の一環として、最新鋭の放射線治療装置(リニアック)として知られるスウェーデン・エレクタ社製の「バーサHD」を新たに2台導入。多方面からピンポイントで放射線を照射させることで正常組織への照射量を低減できるため、安全性を担保しながら食道がん、乳がん、肺がん、前立腺がんなどの術前術後の放射線治療や根治治療に力を発揮する。
 更新された2台のCT(64列)は低線量、造影剤使用料の最大70%削減など患者負担を軽減する一方で、高画質、再生時間の短縮なども可能に。またMRIは3・0テスラとなり高速化・高分解能で患者のストレス軽減を実現。PET(ポジトロン断層撮影装置)とCTを組み合わせたPET・CTはデジタルPETスキャンで高分解能、高感度と5ミリ大の微細ながんや転移を的確に検出することができる。
「リニアックについては、正常な組織にダメージを与えないようプランニングできる優秀な医学物理士が常勤しています。がんと闘うためにハードとソフトを組み合わせて質のいい診断、治療を行なえるようになったことが新病院の強みだと思います」 
 この恵佑会札幌病院は、手術支援ロボット・ダヴィンチによる手術をいち早く導入したことでも知られる。「当病院のダヴィンチによる手術は2012年、泌尿器分野の前立腺がんから始まりました。現在は泌尿器全般の腫瘍をはじめ、胃がんや食道がん、肺がん、縦郭腫瘍(左右の肺の間に隔られた空間にできる腫瘍)の手術を日常的に行なっています」
 ここでは、体に負担が少なく極めて精緻な手術が可能な最新機種「ダヴィンチXi」2台を導入しており、さらなる増設も検討している。10月からは直腸がんの手術もダヴィンチで行なうため北大からプロクター(指導医)の資格を持つ医師ひとりが赴任する。
「泌尿器や呼吸器のダヴィンチ手術は比較的短時間で終わりますが、食道がんは首から胸と腹にかけての3つの領域で行なわねばならないので、時間がかかります。細川会長は、その繊細で手間がかかる作業を開胸手術で大きな成果をあげてきた。神経温存が大事な直腸がん手術もダヴィンチでどれくらい時間がかかるかを見極めていこうと思います」
 同病院の2015年の手術件数は約1300症例だったが、ダヴィンチ手術が日常的に行なわれるようになった今は年間約3600症例にまで増えている。旧病院で8室だった手術室を12室にしたのは増加する手術件数の対応するため。部位別の手術件数では大腸と小腸が最も多く、2番目は胃と十二指腸、3番目は食道で以下は泌尿器分野、肺、耳鼻咽喉科と続く。
 

患者目線による医療を追求

 
 鈴木理事長は千葉県野田市出身。北大医学部に進み呼吸器外科と乳腺分野を専攻し、卒業後は北大第2外科でがん研究に携わる。その後、米国・フィラデルフィアのハーネマン医科大学留学、新日鐵室蘭総合病院(現・製鉄記念室蘭病院)を経て2007年に恵佑会札幌病院に副院長として赴任。乳がんと呼吸器がんの急性期治療と緩和ケアを担当しながら、DPC(診断群分類包括支援評価)導入の陣頭指揮を執り、昨年理事長に就任した。
 法人トップとして管理業務をはじめ現場で乳がん治療に携わるなど多忙な日々を送る鈴木理事長は、今回の新築移転について次のように語る。「開院以来、当病院はがん治療を中心に据え、終末期までをカバーしてきました。この基本は揺らぐことはありません。新築移転は、この方針を大切にしながら新しい時代にマッチさせるための戦略の一環です」
 新型コロナの感染拡大を受けハード面での変更もあったが、施設づくりでは「患者目線での医療を提供する」ことに腐心したという。
「患者中心の医療とよく言いますが、ともすると『患者を助けている』という目線になりがちです。そうではなく患者の立場から見た、いわゆる“患者目線の医療”こそ必要なのではないでしょうか。1階に疼痛コントロール、栄養管理、リハビリ療法、入退院の支援などを行なうブースを設けたのもその一環で、患者の申し出にすぐに対応し業務も柔軟に変えていく。こういった患者目線の医療を徹底的に追求していきたい」
 その“患者目線の医療”を踏まえ、恵佑会札幌病院をどのようにグレードアップしていくのか。
「病院としてのクォリティを高めるには、まだ不十分なところもたくさんあります。例えば、多忙なオンコロジーセンターでは専門の看護師や総合診療医が不足しています。また、ようやくがんリハビリで診療報酬が得られる体制になりますが、この分野でのスペースが足りないという課題もあります。今回の新築移転で、ある程度のハードは整いましたが、それを支えるソフト、マンパワーづくりが大事だと考えています」
 近隣の本通13丁目北には2012年に開院した恵佑会第2病院もある。第2病院は内科を中心に消化器系のがん診断を行なうなど、外科系以外の高度な医療を提供している。
「高齢化が進み多くの方が病気に対して敏感になっており、質の高い検診が求められています。従来から恵佑会グループは、肺がんや消化器がんの検診について揺るぎない信頼を得てきました。第2病院では、術前の検査や消化器がんの内視鏡治療で実績を上げていますが、将来的には質の高い検診センターなどを含めて運営していければと思います」
 高齢化が進展する中で、患者目線で医療を提供し地域医療に貢献する病院づくりを目指す、恵佑会札幌病院の今後を注視していきたい。
 


社会医療法人恵佑会 恵佑会札幌病院
札幌市白石区本通9丁目南1の1
TEL:011-863-2101
URL:https://www.keiyukaisapporo.or.jp/

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

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