つしま医療福祉グループの対馬代表に日本医療大学の移転集約事業を訊く
教育と研究、医療と福祉の一大拠点が月寒東に誕生へ
創業の地、月寒での新事業に意欲を見せる対馬代表(つしま医療福祉グループ本部で)
(つしま・のりあき)1953年美唄市生まれ。大学卒業後に社会福祉法人を設立し、84年に豊平区に特別養護老人ホーム「幸栄の里」を開設。創業時より在宅サービスに取り組み、日本初の株式会社による在宅介護サービスの提供や「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護・看護」サービスを開発し、国の制度として普及させた。2014年にアンデルセン福祉村に日本医療大学を開学。16年に学内に認知症研究所を開設。同年10月に1億総活躍国民会議の民間議員に選出。一般財団法人つしま医療福祉研究財団会長、一般社団法人日本認知症ケア学会評議員、厚労省の社会福祉法人のあり方に関する検討会構成員など公職多数。つしま医療福祉グループ代表、社会福祉法人ノテ福祉会理事長、学校法人日本医療大学理事長。66歳
Medical Report
つしま医療福祉グループ(対馬徳昭代表・本部札幌)傘下の日本医療大学(島本和明総長)が2021年春、札幌市豊平区月寒東に移転を果たす。清田区真栄と恵庭市に分かれているキャンパスを集約し利便性を図ると同時に、従前の日本医療大学認知症研究所の機能を大幅に強化する。同じ敷地に大学病院や高齢者施設などを併設し、教育と研究、医療と福祉が互いに連携する計画も注目されるところ。介護が必要となった高齢者が住み慣れた地域で安心して暮し続ける「地域包括ケアシステム」を全国に先駆けて実践したつしま医療福祉グループ。月寒というゆかりの地での新たな挑戦に熱意を燃やす対馬代表に事業の全貌と将来の目標を訊いた。(7月25日取材)
原点回帰の大事業がスタート
──日本医療大学の豊平区月寒東地区へのキャンパス移転集約が決定し、7月20日には新築工事の地鎮祭が行なわれました。
対馬 ここまで来れて、正直ほっとしています。日本医療大学は真栄キャンパス(清田区真栄)と恵み野キャンパス(恵庭市)で構成されていますが、2014年の大学創設当時から交通の便の悪さが課題となっていました。地下鉄から歩ける場所に限定して移転先を探していましたが、学校法人八紘学園から事業用地として約5・6ha(豊平区月寒東3条11丁目ほか)を借り受けることが決まり、事業計画についてもこのほど札幌市都市計画審議会から同意をいただきました。大学移転に併せて病院、高齢者施設なども配置し、施設全体の完成は2年後の2021年春を予定しています。
──教育と研究、医療と福祉を集約したグループの総合拠点になる。大学と病院、そして介護施設が同じ場所で連携する取り組みは全国でも例がないのでは。
対馬 そもそも介護事業を母体に大学を創設したのは当グループが初めてです。大学の移転事業では真栄キャンパス(看護学科・放射線学科)と恵み野キャンパス(リハビリテーション学科)を新キャンパスに統合。さらに、昨年経営権を継承した札幌月寒病院もここに移転し、病院名を「日本医療大学病院」に変更します。敷地内には看護小規模多機能型居宅介護事業所を含む高齢者施設も併設する予定です。入院日数を減らすことは国の政策ですが、早期退院した在宅者の医療ニーズは高い。そうした人たちに対応するのが看護小規模多機能型居宅介護で通所、泊り、訪問の3つの機能を持たせます。
──大学移転の大きな目的のひとつに認知症研究のレベルアップを掲げておられる。
対馬 現在大学内に設置している日本医療大学認知症研究所は、移転に伴い機能を大幅に強化します。研究範囲を従前の認知症のメカニズム解明から発症予防、発症時期を遅らせる手法などに広げ、最終的には疾患としての制圧を目指す考えです。
これまでもアミノアップ(本社札幌)から「酵素処理アスパラガス茎抽出物」の軽度認知症に対するモニタリング調査を受託したり、認知症サポーターの養成を手掛けてきましたが、移転後は病院と大学、研究所が一体となって本格的に取り組むことになります。日本医療大学の全ての機能を認知症研究に生かすことができることも大きい。
──認知症研究所のメンバーは。
対馬 大学の教員と認知症の知見に長けているグループ内のスタッフ、看護の教員、リハビリテーションや介護の専門職やソーシャルワーカーなど10人ほどです。
──グループとして認知症の臨床フィールドとなる多くの利用者を抱えておられる。
対馬 グループのいわば母体である社会福祉法人「ノテ福祉会」が運営する87事業所のうち、札幌市内の老人ホームや居宅サービスの利用者は約2000人。認知症の研究に当たってはこの皆さんの多くから協力を仰ぐことができる。これは当グループならではの大きな強みであり、将来的には他の大学病院などの治験にも協力できるのではと考えています。
──認知症研究で得た新たな知見を入所者や通所者に還元することもできますね。
対馬 なぜ認知症になるのか。まずはそのメカニズムを解明したい。すでにMRIを使えば発症の有無や発症時期がある程度分かる時代です。発症する時期が予測できればリハビリテーションや脳ドリルで遅らせることができます。
──発症のメカニズムはまだ分からないが、症状の進行はある程度遅らせることができる。
対馬 ヨーロッパなどの福祉先進国では「スヌーズレン療法」(1970年代、オランダで重度知的障害者向けに開発された療法。五感を適度に刺激することに特徴があり、近年は認知症の高齢者にも応用されている)など症状の進行を遅らせるリハビリが定着しています。研究と合わせ移転後の病院ではこの療法を推し進める予定です。
──移転により交通アクセスが良くなり、学生の皆さんにとって快適さや利便性がアップしそうです。
対馬 新キャンパスは地下鉄東豊線と地下鉄東西線を利用でき、例えば東西線の南郷13丁目駅からは徒歩で約10分ほどです。今までは専門学校の校舎を転用していたので何かと不便をかけましたが、新キャンパスでは学生食堂をはじめラーニング・コモンズ(学習支援)ブースを備えた図書館、大講堂も設けます。大学校舎と病院を繋ぐコミュティハウスではコンビニやATM、レストラン、フィットネスジムをつくり、学生や教職員だけではなく地域の方々にも利用してもらう計画です。
──まさに至れり尽くせりの環境ですね。キャンパスの移転統合を踏まえ学科を増やす計画は。
対馬 私たちは元々社会福祉からスタートしているので、現在の保健医療学部のほかに医療福祉学部の新設を目指していきたい。
──八紘学園の一帯は牧歌的な月寒の原風景が残っています。
対馬 大学卒業後、入社したのが八絋学園の隣にあった札幌トヨペットで、36年前に起業し特別養護老人ホームの運営を始めたのも月寒の地でした。今回の大学キャンパスの移転集約、医療と福祉の拠点づくりは私にとって、まさに原点回帰と言える大きな事業になりそうです。
7月20日の地鎮祭で安全を祈願(左から南久俊専務理事、対馬代表、島本和明総長)
日本医療大学の新キャンパスと関連施設の完成イメージ
現在の真栄キャンパス(アンデルセン福祉村)
7月20日の地鎮祭で安全を祈願(左から南久俊専務理事、対馬代表、島本和明総長)
日本医療大学の新キャンパスと関連施設の完成イメージ
現在の真栄キャンパス(アンデルセン福祉村)
必要な時に適切な医療を
──現在の札幌月寒病院(92床)から改組される日本医療大学病院ではどのような医療を。
対馬 今までは急性期対応の位置付けでしたが、移転後は回復期主体に転換していきます。在宅サービスなどの利用者を対象に私たちが行なった調査では、通院していないため身体機能が低下したり寝たきりになっている人が多いことが分かりました。地域包括ケアシステムを構築する上では、必要な時に適切な医療を提供する仕組みが必要です。
──リハビリも重要視する。
対馬 現在の診療科目を見直し、一般内科、循環器内科、呼吸器内科、神経内科の他にリハビリテーション科を設け、専門外来として物忘れ外来も開設します。移転後は一般病床を一部残し、病棟は地域包括ケア病棟とリハビリを行なう回復期病棟に転換したいと考えています。病院と併設する高齢者施設、看護小規模多機能型居宅介護は学生実習の場としても活用します。
──人材が不足する中、自前でスタッフを養成する機能も持たせる。
対馬 職業選択の自由は学生にありますが(笑)、看護師やリハビリのスタッフは日本医療大学の出身者から採用していければいいですね。
ただ残念ながら介護職については、日本人だけで充足することは難しい状況にあります。現在、当グループでは中国、ミャンマールートで介護技能実習生を確保し現在、中国人4人、ミャンマー人35人の皆さんに働いていただいています。
──介護業界全体がそういう流れですね。ただ雇用トラブルや不法就労といったリスクもある。
対馬 その日のうちにネットで彼らの母国に職場の情報が流れる時代です。コンプライアンスの遵守はもとより、とにかく外国人労働者は大事にしなければならない。私たちは技術面の指導だけではなく、生活面での配慮や目配りに心がけ、こまめに面倒を見るようにしています。言語や生活文化の違いはやはり大きいし、ストレスの元になる。
彼女たちには当グループが用意した寮などで暮らしてもらっていますが、私自身も様子を見に行き困っていることがないかどうか確認するようにしています。そんな甲斐もあってか、有り難いことに、最近は「日本のパパ」と呼ばれるようになりました(笑)。
──国際的な評価など将来的なことを見据えている。
対馬 この職場はとてもいい、周りにも親切にしてもらっている。そんな話が母国に伝われば、新しい働き手を確保しやすくなります。反対に粗末に扱ったりすれば敬遠されるのは当然。選ぶのは我々ではない。どの国に行き、どんな仕事に就くかは技能実習生が判断する。そこを間違えてはいけません。
江別でも地域包括ケアを実現
──江別市から受託された事業もあるそうですが。
対馬 江別市が2017年3月に策定した「江別市生涯活躍のまち(CCRC)」整備事業の公募型プロポーザルに手を挙げ、昨年8月に事業予定者の決定を受けました。
このCCRCは高齢者の地方移住を促し、介護や医療が必要になった時にケアを受けながら暮らせるコミュニティづくりを目指す米国発祥の仕組みです。国は地方の人口減少に歯止をかけるため、地方創生策の一環として日本版「CCRC構想」を推進し、金沢市などが先進モデルとして知られている。江別版のCCRCは移住者ではなく市内に住む江別市民が生涯にわたり安心して暮らせるまちづくりを目指しています。
──事業主体は。
対馬 当グループの社会福祉法人「日本介護事業団」です。CCRCには以前から興味があったので、江別市の整備事業では地域包括ケアの理念などを普遍化することを提案しました。テーマは高齢者だけでなく子供や若者、障害者、外国人のいる共生社会の実現。ハード面では特別養護老人ホームと介護老人保健施設、障害者のグループホーム、就労継続支援A型事業所でのパン工房の展開などを計画しています。大麻地区の札幌盲学校跡地で来年4月に着工し、完成は東月寒の事業と同じ21年4月を予定しています。
──月寒と江別で、つしま医療福祉グループのこれまでの集大成ともいうべき事業がスタートする。今後も我が国における医療福祉をリードする展開を期待しています。本日はありがとうございました。
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