札幌東徳洲会病院が僧帽弁逆流症の最新治療「マイトラクリップ」を導入
高齢者や合併症患者に朗報のカテーテルによる低侵襲手術

2019年6月号

カテーテル治療で多くの患者に朗報を届けたいと意気込む山崎誠治副院長

(やまざき・せいじ)1967年音更町出身。93年旭川医科大学医学部卒業。94年~97年まで同医科大医局から札幌東徳洲会病院、旭川赤十字病院、北海道立紋別病院に赴任。97年から東徳洲会病院循環器科に勤務し現在副院長、循環器内科部長。日本循環器学会専門医、日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医・専門医

Medical Report

救急医療の拠点として知られる医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院(札幌市東区・太田智之院長・325床)。同病院では、心臓の弁が閉じずに血液が逆流する「僧帽弁閉鎖不全症」をカテーテルで治療するマイトラクリップ(Mitra Clip 経皮的僧帽弁形成術)をこの5月から導入した。欧米で普及し、昨年4月に保険収載されたマイトラクリップは、高齢や合併症などで開胸手術が難しい患者への新たな治療法として注目されているもの。すでに徳洲会グループの湘南鎌倉総合病院などで治療が始まり、多くの患者に朗報をもたらしている。札幌東徳洲会病院の副院長で循環器内科部長を兼任する山崎誠治医師(52)にマイトラクリップ治療のメリットや導入への意気込みを訊いた。(4月24日取材)
 

クリップが僧帽弁を挟んだ様子を描いたマイトラクリップ治療の模式図【画像提供元:アボットバスキュラー】

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深刻な心不全に陥るリスクも

 僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にあり、形状がカトリックの司教が使う司教冠に似ていることからこの名がついた。肺から左心房に流れてきた動脈血を左心室に送り出し、血液が左心房へ戻らないように心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりする。僧帽弁閉鎖不全症は、僧帽弁が傷ついたり心臓が拡大して閉じにくくなったために血液が逆流する疾患。逆流により左心房が拡張し、全身に送り出す血液が減少するため心不全状態になる。
 この僧帽弁閉鎖不全症には「器質性」と「機能性」の2種類がある。「器質性」は左心室側から僧房弁を引っ張っている腱索・乳頭筋が何らかの原因で断裂、または伸びるなど弁自体の構造に欠陥が生じ、逆流が起きる。「機能性」は拡張型心筋症など左室機能不全や心拡大により僧帽弁が拡大したり弁尖が下方に引っ張られることで接合不全が起き、逆流が起きるものだ。
 初期には自覚症状がないが、進行すると肺に血液や水が溜まったり、肺動脈の圧が高まるため体を動かしたり階段を上った時などに息切れや動悸がする。さらに症状が悪化すると安静時でも呼吸困難を起こしたり激しく咳き込んだりする。また、逆流により心房細動という不整脈の合併症を起こすこともある。
 器質性の僧帽弁閉鎖不全症は、先天性のものから高齢者まで幅広い年齢層に見られ、健康診断で心雑音が確認され心エコーで病気が分かるケースも少なくない。一方、虚血性心疾患や心筋症などで心臓の機能が低下し二次的に起きる機能性の僧帽弁閉鎖不全症は高齢者に多い。
 これまで我が国では、症状が進行すると弁を修復するか人工弁に置き換える開胸手術が必要とされていた。ところが、合併症があったり心機能が低下した高齢者は手術のリスクが高く、薬による対症療法しか選択肢がない現状だった。
 こういうケースに有効なのが今回紹介するマイトラクリップ治療だ。山崎副院長に解説していただこう。
 

マイトラクリップ治療を支えるハイブリッド手術室

クリップが僧帽弁を挟んだ様子を描いたマイトラクリップ治療の模式図【画像提供元:アボットバスキュラー】

マイトラクリップ治療を支えるハイブリッド手術室

新たに生まれた選択肢

「このマイトラクリップは、すでに欧米を中心に50カ国以上で8万人以上の患者さんが治療を受けてきた実績があります。この中で日本では昨年4月に保険適用となり、本格的な普及が始まりました。
 治療に当たっては、まず足の付け根の静脈からカテーテルを通し心臓まで到達させます。そして右心房と左心房の間にある壁(心房中核)に穴を開け、左心房に移動する。ここからがいわば本番で、経食道エコーによる画像を頼りに場所を確認しながらカテーテルの先端に付いたクリップで僧帽弁の前尖と後尖を挟み、血液の逆流を防ぐのです。左心房に通す時に開けた穴は自然と塞がるので心配ありません」
 この時、特に重要になるのがクリップを挟む位置だ。
「クリップを挟む位置が適切でないと僧帽弁に狭窄症が起きるケースがあります。このため、クリップを一度挟んだ状態で狭窄症が起きていないか、血液の逆流が抑えられているかどうかを経食道エコーで確認し、クリップの位置が悪い場合は解除して最適な場所に調整します」
 メッシュ状のクリップは、時間とともに心臓の筋肉の内皮に覆われ一体化するため生体的な影響はない。「僧帽弁閉鎖不全症は、悪化すると肺から来る血液が左心房に溜まって、うっ血性の心不全を起こすこともある恐ろしい病気です。マイトラクリップは、これまで手術を受けられず苦しい思いをしてきた患者さんにとって朗報になると思います」
 徳洲会グループの湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)では、札幌東徳洲会病院の循環器センター長を兼務する齋藤滋総長を中心に2015年からマイトラクリップの国内治験に参加し、昨年4月には臨床使用を開始。適応は高年齢や合併症のため外科手術が困難な患者に限定されているが、治療後の患者は劇的に僧房弁の逆流が改善されたことが報告されている。従来の外科手術に比べ体への負担が大幅に少ないためQOLの向上にもつながっている。
 ただし治療の実施に当たっては、厳しい施設基準を満たす必要がある。循環器内科や心臓血管外科の専門医や経食道エコーの有資格者ら専門スタッフが複数いることやカテーテル治療や外科手術の実績を踏まえて、日本循環器学会などが治療実施施設として認定する。
 このほど認定を受けた札幌東徳洲会病院は循環器内科、心臓血管外科合わせて14人の専門医がおり、治療の要となる経食道エコー技師の資格を持つ医師もいるので安心だ。
 マイトラクリップ治療で実績を積んでいる先述の齋藤医師は月に2回、大動脈弁狭窄症に対する「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)」などの応援に駆け付けており、5月16日に予定されているマイトラクリップの初症例に向けスタッフに技術指導を行なっている。治療は最新の3D心臓エコーを備えたハイブリッド手術室で行なう。3Dエコーは細かな断層写真を立体で写し出すため、心臓の形状や動き、血管構造を実態に近い形で把握できる。



 25の診療科を有する札幌東徳洲会病院は年中無休。24時間受け入れている救急搬送は昨年実績で9732件にのぼり、急性期と救急医療の拠点病院として地域に貢献している。心臓疾患分野でも経皮的冠動脈形成術(PCI)738件、TAVI160件、不整脈治療150件と大きく実績を上げている。
 この5月からスタートしたマイトラクリップ治療では、総合病院の強みを生かし循環器分野以外の診療科のバックアップを受けながら最善の治療を提供していく予定だ。
 今後の意気込みを山崎副院長は次のように語る。「現在、本番に向け担当スタッフが毎週のようにシュミレーションを行なっています。当院は一昨年の4月からTAVI治療を開始し、これまでに約300の症例を積み上げてきましたが、これはチームワークの賜物。TAVIで培ったこのチーム力がこれから始まるマイトラクリップ治療にも生きてくることでしょう。
 病気の中にはがんのように手を尽くしても治療が難しいものもあります。その点で心臓は、しっかりした理論のもとで最善を尽くせば必ず結果が出てくる“嘘をつかない臓器”なので、やり甲斐があります。これまで手術を諦めていた患者さんのためにも新しい治療法、マイトラクリップを普及させていきたい」
 

 


医療法人徳洲会
札幌東徳洲会病院
札幌市東区北33条東14丁目3-1
TEL:011-722-1110

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