「100年続く病院」へ大きな一歩。世界展開を睨み中国資本と提携
地域に根ざしグローバルな医療を目指す札幌心臓血管クリニックの新たな挑戦
世界進出という大きな夢に向かって歩みはじめた藤田理事長
(ふじた・つとむ)1961年稚内市生まれ。86年旭川医科大学医学部卒業。札幌徳洲会病院、国立循環器センターなどを経て90年札幌東徳洲会病院に勤務。同院副院長兼循環器センター長、院長代行を歴任。2008年札幌心臓血管クリニックを開院。11年に医療法人化し、札幌ハートセンター理事長に就任。日本内科学会認定医、日本救急医学学会専門医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定産業医、日本心臓血管インターベンション治療学会指導医。57歳
Medical Report
今年4月、開院から11周年を迎える医療法人札幌ハートセンター(藤田勉理事長)の札幌心臓血管クリニック(札幌市東区、道井洋吏院長)。あらゆる心臓・循環器疾患に対応する同病院が世界での展開を見据えて大きな一歩を踏み出している。それが昨年10月にスタートした、中国の武漢(湖北省)などで複数の病院を展開する資本グループとの提携だ。相互の医療技術の交流をはじめ中国本土や道外での施設の展開、さらには東南アジアへの進出などを睨み、藤田理事長は「このうえないパートナーを得た」と喜びを隠さない。診療所から病院へ、そして日本から世界へ──。最新の医療を先取りしながら進化を続ける札幌ハートセンターの今後の戦略を藤田理事長に訊いた。(2月4日取材)
世界の潮流に合わせた最先端治療を常に提供
札幌心臓血管クリニックは2008年4月、藤田理事長が19床の循環器内科単科医院を開業したのが始まりだ。そこから文字通り急成長を遂げ、11年には74床の循環器専門病院として再スタート。翌12年には北海道で最も多く心臓外科手術を行なってきた道井洋吏医師を院長として招聘するなどして体制を大幅に強化した。
昨年の春には、厚労省がまとめた2016年の「心臓カテーテル治療実績調査」で、経皮的冠動脈形成術(PCI)の年間患者数が2123人と全国1位にランクされている。誕生してから10年あまりの現在、心臓血管外科領域や不整脈治療などを合わせると同病院は循環器分野で全国トップを走っていると言っても過言ではない。「病院名に“心臓血管”を標榜する医療機関として、世界の潮流に合わせた治療を常に提供し、さらにブランド力を高めていきたい」(藤田理事長)
それらが、今年に予定される「ダ・ヴィンチ(da Vinci Surgical System=ダ・ヴィンチ・サージカルシステム)」など3つの最先端医療の導入だ。
ダ・ヴィンチは米国で開発された内視鏡下手術用ロボットで、3つのアームと1つのステレオ3Dカメラを搭載。アームのカセットを交換することでさまざまな処置が可能だ。手術に際してはアームにメスなどを装着し腹部や胸部に開けた小さな穴から挿入。医師は離れた場所に置かれたコンソールに座り、3次元(3D)画像をモニターで見ながら遠隔操作する。
これまで、前立腺がんと腎臓がんの手術に保険が適応されていたが、昨年4月から心臓外科分野にも拡大された。心臓血科手術の中でも、左心房と左心室の間にある僧房弁の閉まりが悪くなる僧房弁閉鎖不全症の弁形成術などに期待されている。
「ダ・ヴィンチは手技では届かない所にも治療の手が届く可能性があり、低侵襲で患者への負担も少ない。将来的にはスタンダードな治療法になっていくでしょう」(藤田理事長)として、今年の夏をめどに導入を予定している。
2つ目は、「マイトラルクリップ」というカテーテル治療のひとつで、こちらも重篤な僧房弁閉鎖不全症に有効とされる。導入には施設基準があり、現在のところ道内で認可されているのは数カ所の病院に過ぎないが、同病院では今年中に認可されるよう動いている。
3つ目は、不整脈の一種で、不規則に震えて脈拍が乱れる心房細動による血栓を予防する効果のあるカテーテル治療「ウォッチマン」。心房細動が起きると心臓で血流がよどみ、血栓ができやすくなる。それらが脳の血管に詰まると脳梗塞を引き起こす恐れがあるので、血栓を予防する抗凝固薬を投与するのが今までの治療法だった。
ウォッチマンを使い、血栓のできやすい部分に蓋をすることで血栓の予防効果が高まる。日本では今年中に認可が予定されているが、中国や香港ではすでに認可されており、標準的な治療として普及しているという。
ハード面では、第4期計画として現在の病院に隣接する土地を確保し、3年以内に施設を増設する計画だ。心臓リハビリセンターを新たに設け、カテーテル室の増設、集中治療室(ICU)の拡充も予定している。
導入が予定される「ダ・ヴィンチ・サージカルシステム」(メーカーのHPより)
札幌心臓血管クリニックの「ハイブリッド手術室」
藤田理事長が視察で中国を訪れた時のスナップ(2017年12月)
札幌心臓血管クリニックが医師を派遣している市立稚内病院
導入が予定される「ダ・ヴィンチ・サージカルシステム」(メーカーのHPより)
札幌心臓血管クリニックの「ハイブリッド手術室」
藤田理事長が視察で中国を訪れた時のスナップ(2017年12月)
札幌心臓血管クリニックが医師を派遣している市立稚内病院
中国資本との提携で得た「アジア進出」の足がかり
症例数日本一を誇る札幌心臓血管クリニックが次なる目標として掲げているのが、アジアでの展開だ。その足がかりを得たのが、昨年10月にスタートした中国・武漢市(湖北省)などを拠点に病院を展開する医療資本グループとの提携である。
この医療資本グループは、1999年に武漢市内に開院した心臓の専門病院(750床)を皮切りに、香港にも進出。現在、医療機関としては武漢と香港で3つの病院を運営している。武漢市で18年に竣工した新施設は2000床、医師数約180人を抱える総合病院だ。循環器部門でグループ全体の経皮的冠動脈形成術(PCI)の症例数は年間約5000件を数え、中国内の民間医療機関の中ではナンバーワンの実績を誇るという。
「私たちの病院は74病床しかありませんが、PCIの症例数は年間2000件を優に超しています。これに対して提携相手のグループは約3000床でおよそ5000件。数は多いものの効率が悪いことは否めません。彼らは、将来的には中国も日本の民間病院のように集客努力をしなければ、患者が集まらない時代が来ることを予測しています。そんな中で2年前、当病院の見学に来られたグループの幹部が医療水準の高さに驚き、医療技術支援や人材交流の申し出があった。それが今回の提携のきっかけです」
藤田理事長は、今回の提携に至った経緯をこのように説明し、狙いを次のように語る。「大きくなったといえ、これまで札幌心臓血管クリニックは私の個人病院という側面が否めませんでした。グローバル化の流れの中で100年続く医療機関をつくるためには、よりパブリックな経営とさらなる資金が必要です。今回、彼らと提携することで、その足がかりができました。相手先の資本グループは2、3年後に香港で上場する可能性もあると聞いています。それが実現すれば東南アジア進出も夢ではありません。10年、20年後には素晴らしい結果が導かれることを確信しています」
今回の提携により札幌ハートセンターでは組織改革を行ない、中国のグループ本部から事務全般を担うゼネラルマネージャーが赴任。藤田理事長は法人トップに留まりながらメディカル部門全体を統括する立場に就いた。
スタートした新体制下では、提携する中国の病院とネットを介して月1回のカンファレンスを実施。さる1月は武漢チームがプレゼンテーションを行なったが、2月は札幌心臓血管クリニック、3月は香港チームが担当する予定だという。
「それぞれどのような医療を行ない、どんな分野が得意なのか。まずは、プレゼンテーションを通して相互理解を深めるところから始めています」(藤田理事長)
今後は、カテーテルなど医療技術の相互交流をはじめグループとして東京への進出も視野に入れている。藤田理事長自身も来年以降、中国の病院に赴き、カテーテルなどの技術指導に当たる予定だという。
「日本で最先端の心臓血管治療を行なう体制を維持しながら、最終的にはアジアナンバーワンの病院になるのが大きな目標。ですが規模の拡大ばかりではなく、豊富な臨床を経験してきた立場として、それらの実績を基にした研究成果を論文として発表していきたいと考えています。多くの患者さんを診てきたからこそ得られた知見、事実を医療界に還元していかねばなりません」
何かと派手な動きに目を奪われがちな札幌心臓血管クリニックだが、地域医療にもこれまで以上に力を注いでいく。過去に本誌(2016年12月号)でもレポートしたが、同病院では道内各地の病院や診療所に「サテライト外来」を設け、医師がローテーションを組んで「出前診療」に当たっている。
札幌や旭川といった医療インフラの集積地から遠く、高齢者の多い地域では緊急時に対応する循環器専門医がどうしても必要だ。同病院では地域の要請に応じて派遣先を毎年増やしており、現在は全体で37カ所をカバーしている。
最後に、札幌心臓血管クリニックの歩みの中で大きなエポックとなるであろう中国資本との提携について藤田理事長のコメントを紹介しておこう。
「提携先が中国ということで、不安視する声は少なくありませんでした。しかし、問題は人種や国籍ではなく信頼に足る相手であるかどうかです。私は話し合いや交渉を通して彼らはこのうえないパートナーだと確信しました。ある程度リスクを取らなければ前には進めません。思えば、以前勤務していた病院から独立する時も周囲から猛反対されました。まだまだ、守りには入りたくありません」「100年後の病院像」を見据えて、パワー全開の藤田理事長。“アジアにおけるナンバーワン”も夢ではなくなってきたようだ。
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