現地報告/在留邦人が見たフランスのロックダウン
全仏都市封鎖の中を生きる。軋む「ひとつのヨーロッパ」

2020年6月号

コロナ禍の社会を支える人々への感謝を伝えるストリートアート(フォンテーヌブロー)

4月末段階で感染者約12万5千人、死者約2万3千人。イタリアやスペインなどと同様に新型コロナウイルスの感染爆発に見舞われ、厳しい外出禁止措置が取られているのがフランスだ。そのフランスから生々しい現地報告が届いた。在留邦人が見た「全仏都市封鎖」のリアル、そしてコロナ禍によって軋み始めた「ひとつのヨーロッパ」とは──。(文と写真・橘 知親)
 

「アジア限定」だったコロナ

 
 本年1月23日に中国の武漢が封鎖されたというニュースは、遠い国の出来事としてフランスに響いた。地理的に中国に近い韓国での感染拡大や横浜沖に投錨した客船ダイヤモンドプリンセスのニュースもコロナウイルスがアジア人のウイルスであるかのような感覚を人々に与えた。
 目に見えないだけにウイルスは人々に恐怖を与える。今回は中国発のウイルスであるから「中国人はフランスにウイルスを持ち込んでくれるな」という条件反射的な怖さが、もともと多くのフランス人の心裡にある中国憎悪の感情を表面化させる理由となった。ちなみに、フランスではアジア人が「シノワ(中国人)」と侮蔑の意味を込めて罵られることはままある。
 日本人が白人をアメリカ人と見做しがちなように、フランス人もアジア人を中国人と見做しがちであり、私も3月初旬に2回ほど直接的な暴言を受けている。中国人が爆買いに訪れる百貨店ギャラリーラファイエット(パリ)の近くを歩いていた時、ブルジョアと思しき白人夫婦の老婆から「ムッシュバイ菌」とすれ違いざまに言われたのと、それとは別にヤンキー風情の黒人の男から「コロナウイルス」と言われたことだ。
 他の移民たちにも言えるが、華僑もまた強固な共同体を築き、そこに閉鎖的に暮らす傾向が強い。パリのタバコ屋の経営の多くが彼らの手に渡ったように、異邦における華僑の強さは「中国化=シニザシオン(sinisation)」という言葉でも表される。これは、保守派の白人からすれば文化の侵食者として、社会階層の低位に置かれる移民貧困層の黒人やアラブ人からすれば移民であるにもかかわらずビジネスを成功させる憎き存在ということになる。コロナは、公然と中国人や華僑に対して侮蔑行為をする口実を一部の人に与えたようであった。
 

(たちばな・ともちか)東京都出身。2012年より学業と研究のため在仏。パリ郊外のフォンテーヌブロー在住。30歳

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