「成長へ企業変革を恐れるな」塾生40名に贈った熱いメッセージ

2018年5月号

PwCの書籍を掲げて熱弁する石井純二氏(3月2日、北洋大通センターで)

頭取・石井純二”の「贈る言葉」
ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長やアインホールディングスの大谷喜一社長のようなグローバル企業の経営者を北海道で育成しようと、昨年から始まった北海道経営未来塾(長内順一塾長)。2期目の2017年度は二世、三世の経営者や創業経営者など40人が参加、1年間に亘って研鑽を積んできた。3月2日に行なわれた2期目の最終講義で演壇に立ったのが北洋銀行の石井純二頭取(現会長)だった。その石井氏は4月1日付で北洋銀会長に就任。北洋大通センターで行なわれたこの講義は奇しくも頭取時代の最後の講演になった。『北海道の現状と企業の持続的成長のために』と題して塾生らに熱く語りかけたこの日、石井氏は若い世代に何を伝えようとしたのか──。長年の経験を踏まえた示唆に富んだ発言をまとめた。

常に経済動向を把握せよ

 足下の経済状況を知ることは、さまざまな商売をするうえで基本中の基本です。2008年にアメリカで起きたリーマンショックの余波は瞬く間に世界中に広がり、最も影響が大きかったのは日本でした。北海道にも影響は及び、あらゆる業界に影を落としました。景気と無縁の仕事などありません。経営者は、常に経済動向をしっかり認識するとともに絶えず関心を持っていなければならない。
 2017年の株価を振り返ってみると、国内の企業業績は好調で世界的にも好景気だったため株価は上昇基調を維持し、11月7日には日経平均株価が2万2937円とバブル崩壊以降最高値を更新しました。さらに今年1月明けの相場は26年ぶりの最高値になりました。1月23日には2万4000円を超え、このままマーケットは順調に進むだろうと誰もが思っていました。
 ところが2月に入って株価は急激に下落。2月6日に2万2000円を割り込み、今日も朝から非常に荒れた相場になっています。
 米国をはじめ日本や中国、新興国も経済は順調です。それなのに、株価は急落しました。FRB(米連邦準備制度理事会)は昨年12月に利上げを決定し、今年は3回の利上げを予定しています。金利を引き上げるのは、景気が過熱しないようにするためです。この2年間、為替のドル円相場は、米国金利とほぼ同じような動きをしていました。
 金利が高いドルと金利が安い円ならどっちを買いますか。通常、当然金利の高いドルを買いますね。ドルを買えばドル高になって円安になります。それが基調でしたが、2月に入って米国金利が上がっているにも関わらず円高になりました。市場はドルを売って円を買ったのです。
 なぜこういうことが起きたのかというと、米国の雇用統計の数字が非常に良くてほぼ完全雇用のため、景気の過熱警戒感が一気にマーケットに広まったからです。ずっと同じような状況が、ある日突然まるっきり違う展開になることがあります。その時、商売をしている人たちはいろんな対応をしていかなければならないのです。
 日本経済を見ると、今年の名目GDPは1・9%成長になると見込まれています。道内は全国と比べると1%くらい低い水準ですが、今年もほぼ変わらず安定して推移するでしょう。一番生活実感に近い名目成長率は1%成長、物価上昇率を差し引いた実質成長率は0・5%です。
 一番の牽引役である個人消費、個人消費がどう伸びるかによって商売の目標値が変わってきます。北海道の成長率が1%なのに企業の業績が0・5%で昨年と同じであれば、その商売はシェアダウンしたことになります。皆さん方の戦略に間違いがあったかもしれません。ぜひ個人消費、住宅関連投資、設備投資の数字を見て自分の会社の計画と比べてもらいたい。

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高齢化、人口減少に向き合え

 当面する北海道の課題では、全国で最も早いペースで進む人口減少が挙げられます。北海道の人口は1997年の569万人でピークを付け、そこからどんどん減少して、足下では毎年3万人ずつ減っています。これは一つの市が毎年なくなっている計算になります。2020年には、道内の高齢化率は今の30%から40年には40・7%になります。100人中40人が65歳以上になる勘定です。40年には人口は419万人になり、生産年齢人口は100万人減の213万人になってしまいます。
 こういう流れにどう対応すべきなのか。一つは女性、高齢者の雇用促進など働き手の多様化を進めていく必要があります。おそらく2040年には外国人労働者が当たり前になるでしょう。今はまだ、女性、高齢者、外国人の就業には大きな壁があります。例えば女性の雇用で言えば約150万円の年収を超えると配偶者控除がなくなってしまう。高齢者の老齢年金は勤めていても支給を受けられるように変えるべきです。外国人雇用は、実習制度に基づいていますが、最長5年間でそれ以上は雇用できない。制度面でのさまざまな見直しが必要になります。
 北海道では人口減少がハイスピードですが、事業所の減少スピードも早いのが特長です。特に後継者難によるものが非常に多くなっています。後継者がいないことが原因の廃業は、全国をはるかに上回る結果になっています。北海道は最も後継者不足に悩んでいるエリアと言えるでしょう。
 人口減少の背景には、出生率の低さがあります。北海道の出生率は1・29人で全国一低い東京の次です。札幌市の出生率を見ると、全国政令指定都市の中で最も低い1・20人。これは地元の産業構造上の問題もあると思います。圧倒的にサービス業の比率が高いため、非正規労働者が多くなっている。このことも原因の一つではないかと私は思っています。
 地方におけるインフラの維持にどのくらいの人口が必要かという国交省の資料があります。例えば病院は5500人の人口規模で初めて50%の確率で維持できると示されています。銀行は、6500人いなければ店舗の維持ができません。地域で人口減少が起きてくると、住民サービスや社会サービスなど生活に直結するサービスの提供が難しくなってくるでしょう。出生率を上げるためにも女性が働きやすい職場づくりを官民挙げて取り組んでいかなければならない。
 生産性の向上を図る取り組みにも力を入れなくてはなりません。そのためにはAI、ロボットの活用が必要ですが、ロボットやAIが進展しても変わらないものがあると言われています。それは味わいや感動などの感受性、そして創造性に訴えるものです。さらに将棋でも碁でもロボットが名人に勝つ時代ですが、ロボットやAIはインプットするデータがなければ何ら役に立ちません。従ってAIの能力を高めていくには、どうしても人間の知恵が必要になります。

持続的成長の3条件

 さて、北海道の強みは言うまでもなく観光と食ですが、それぞれに課題があります。外国人観光客がどんどん増えていますが、圏域別の入り込み数を見ると、札幌を中心とした道央圏が55%を占めており、完全に札幌中心です。また、観光の付加価値額を見ても沖縄県が圧倒的で、北海道は全国の真ん中あたりにとどまっています。
 北海道では観光客の入り込みに変動が大きいことがひとつのネック。夏と冬にピークを迎えて、その間の季節は観光客が極端に少なくなります。こういった課題を改善するためには、道央圏集中型を広域型に変えていかなければいけない。道南、道北、道東に広げることによって長期滞在型観光にも繋がるでしょう。
 北海道の水産物・水産加工品の輸出額は年間約600億円前後ですが、その半分はホタテが占めています。道は輸出を促進して農畜産物などとの合計で2018年に輸出額1000億円を目標にしています。そのためにはまだまだ北海道の素晴らしい食を伸ばさなければならないし、付加価値を高める必要がある。何をしなければならないか。まずは品質保証です。海外に食品を売ろうとすると品質保証は避けて通れません。HACCPという国際的な安全認証を取ることが必要です。
 さまざまな課題がある中で、持続的成長のためにはどのような視点で経営していくことが求められるのでしょうか。世界的なコンサル会社「PwC」が最近まとめた『成長への企業変革』から3つのポイントについて話します。
 1つ目は、自らの会社を差別化するケイパビリティ、つまり強みを引き出す組織能力です。2つ目はコスト構造の検証。儲かっていないところにコストを掛け過ぎていないか、成長性のないところにコストを掛け過ぎていないか、絶えず検証していくことです。3つ目は、組織を変える、組織再編をしっかりと行なうことです。同時に皆さんの会社の企業文化も変えなければいけません。アメリカで伸びている会社は共通事項として、常にこれらのことを行なっています。

二宮尊徳の遺訓に学べ

 最後に、長野県の食品メーカー、伊那食品工業についてお話します。
 この会社の塚越寛会長は、若いころに肺結核に罹って高校を中退、木材会社に勤めました。その木材会社の子会社で経営が傾いていたのが、伊那食品工業という寒天メーカーでした。彼はそこの再建を託されたのです。そして塚越会長は、見事に再建して48期連続の増収増益を達成しました。
 塚越会長は、社員を幸せにし、社会に貢献するのが企業経営の目的という信念を持っている方です。それを実現する方法として、外部環境に左右されることなく毎年少しずつ会社が成長する『年輪経営』を推奨されています。
 塚越会長の経営哲学には、16のポイントがあります。1つ目は『掃除と無駄を軽視すれば多くを失う』です。この会社では毎朝、社長も一緒に全員で掃除をしています。掃除によって職場が綺麗になり、社員が気持ちよく働けるようになるからです。社員にどこか汚れているところはないかと探す気持ちを促す効果もあるそうです。外部の人が来社する際に、掃除が行き届いていると信用力向上に繋がると言います。
 2つ目は『工場を潜水艦にしてはならない』です。潜水艦には窓がありません。工場は安全性、効率性も重要ですが、それ以上に重要なのは快適性です。経営の目的は社員が幸せな人生を送れるようにすることであり、そのために経営者が取り組むべきことは労働環境の整備であり、快適に働ける場所を作ることだからです。
 3つ目は『経営の目的と手段を混同しない』です。利益追求だけの経営者の末路は枚挙に暇がありません。経営の目的は、社員を幸せにし、これを通じて地域や社会に貢献すること。会社を永続させるための手段として初めて利益が必要になると述べています。利益が先にありきの経営者は、他人の辛さを顧みない自己中心的な人物が多く、人格に課題があるとも指摘しています。
 4つ目は『社是は会社が立ち返る原点』です。社是は、会社が進むべき方向性を示す道しるべであり、経営の軸がぶれ始めた時に立ち帰る原点だというのです。常にトップが社員に明示してそれを共有する。そのためには、極力簡潔で分かりやすい内容にすべきだと訴えます。(以下省略)
 伊那食品の社是は、『いい会社を作りましょう~たくましく そして やさしく』です。私ども銀行にも社是はありますが、こんなに優しいものではなく難しい漢字がたくさん書いてあります。『いい会社』と『良い会社』は違うと塚越会長は言います。『いい会社』は、すべてのステークホルダーにとって良い会社ということで、『良い会社』とは業績や経営手法が良いことを指摘するとしています。伊那食品は『いい会社』を目標にしているのです。
 最後に皆さんに私から贈る言葉として、二宮尊徳の遺訓を紹介したいと思います。
『人 生まれて学ばざれば 生まれざると同じ 学んで道を知らざれば 学ばざると同じ 知って行うこと能わざれば 知らざると同じ 故に 人たるもの 必ず学ばざるべからず 学をなすもの 必ず道を知らざるべからず 道を知るもの 必ず行わざるべからず』
 この世に生まれてきたら学び続ける、学びを通して道や物事のあるべき姿を知る、それを知るだけではなくしっかり実践することが重要だということです。大変重たい言葉ですが、時としてこの言葉をしっかり噛みしめて経営者として何をすべきか、今一度考えてみることも大事ではないでしょうか。
 本日はご静聴、ありがとうございました。皆さんの今後の活躍を心から期待しています。

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