間質性肺炎の漢方治療に功績。貫いた患者本位の医療と運営
北大前クリニックが3月末に閉院。本間行彦院長が医療人生に区切り

2020年5月号

診療最終日の診察室で笑顔を見せる本間院長(3月31日午前、北大前クリニック)

(ほんま・ゆきひこ)1936年札幌市出身。医学博士、北大名誉教授。北海道大学医学部、同大大学院卒業。北大医学部・保健診療所教授、同保健管理センター所長を経て2000年退官。同年札幌市北区に「北海道漢方医学センター北大前クリニック」を開設。呼吸器疾患、特に間質性肺炎の研究で全国に知られる。著書に『漢方が効く 北大名誉教授30年のカルテから』(北海道新聞社)、『特発性間質性肺炎(IIP)のすべて私はIIPをこう診てきた』(西村書店)などがある。83歳

Medical Report

我が国における漢方治療の第一人者として知られる本間行彦氏(83)が2000年に開設した「北海道漢方医学センター附属 医療法人社団 北大前クリニック」(札幌市北区)が、さる3月末で20年の歴史に幕を閉じた。難病である間質性肺炎を中心に慢性疾患治療に人生を捧げてきた本間院長は、今も膨大なデータに基づいた論文を学会専門誌に発表するなど「1人でも多くの患者を救いたい」との熱い思いを抱き続けている。自身の医療人生にひと区切りつけた本間院長にこれまでを振り返ってもらい、今後の夢などを訊いた。(3月31日最終取材)

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長年の臨床で見つけた真理“人間は脳から病気をつくる”

 
 ──クリニックの運営に区切りをつけ、新たな人生を歩まれることになりました。最近、長年にわたり研究と治療に尽力されてきた特発性間質性肺炎の治療について、あらためて論文を手がけたと聞いています。
 
 本間 間質性肺炎は肺線維症と呼ばれていた難病で、平均余命は3年から5年と言われてきました。しかし、僕が診てきた患者の平均余命は14年に延びました。20%が肺がんになるという病気ですが、がん化したケースは一例もありません。漢方は炎症を抑えるのでがんにならないからです。呼吸器専門医はまさかと言いますが(笑)。
 今回の論文「特発性間質性肺炎患者の予後に対する漢方治療の効果」では、こうした内容を英文で執筆し、一般社団法人和漢医薬学会(富山市)の機関誌「Traditional & Kampo Medicine」に寄稿しました。これまでの臨床結果をデータとして載せ、どんな薬を使えばいいかなど、さまざまな質問に答える形で表も添付しました。
 
 ──学会の査読(専門家による評価や検証)ではどんな反応が。
 
 本間 今回の論文では、最初の段階で反論があり、これを踏まえ2年くらいかけて科学的に非の打ちどころのない内容にして採択されました。和漢医薬学会は漢方の世界では最も権威ある学会なので、科学的なデータに裏付けされた論文でなければ通らない。採択されるとネットで世界中に広がり、知らない方から「おめでとう」と言われ驚いたこともありました(笑)。
 
 ──2年前にWHO(世界保健機関)の国際疾病分類に「伝統医学」として導入されるなど、漢方を中心とした東洋医学は、その効用が世界的に認められています。欧米でも漢方治療が注目されていることを踏まえての論文とか。
 本間 その通りです。足を引っ張り合う傾向がある日本とは異なり、アメリカは「いいのもはいい」と認めるし、理解もしてもらえる。英文で書いたのはそのような事情もありますが、漢方の力によって世界で苦しんでいる間質性肺炎の患者を救いたい。これが一番の理由です。
 
 ──膨大な数の間質性肺炎の患者を診てこられた。
 
 本間 いまデータを整理していますが、これまでの臨床経験から膠原病が間質性肺炎の原因であることを突き止めたことが一番大きな成果でした。膠原病は女性に多い病気でもあり、その膠原病をコントロールすれば間質性肺炎は軽快するということが分かりました。
 
 ──西洋医学的なアプローチでは難しい。
 
 本間 西洋医学的な治療では炎症を抑えるためにステロイド剤を使います。ただステロイド剤では膠原病をコントロールできません。
 例えば手足の関節が炎症を起こして腫れてしまうリウマチはポピュラーな膠原病のひとつです。関節と関節の間にある関節嚢という指を動かすための袋があり、リウマチはそこが何らかの原因で炎症を起こし、腫れて痛みが伴います。なぜ、こうした病気になるのか。免疫の働きに異常が生じ、ウイルス感染などの炎症で“顔つきが変わった”自己の細胞をよそものと誤認し、外部に追い出そうとする。つまり「免疫の暴走」が起こるのが膠原病なのです。
 
 ──膠原病、そして間質性肺炎もこの免疫の暴走と深い関係がある。
 
 本間 西洋医学は、痛みのある時は痛み止めを処方するなど対症療法中心の治療を行なうため本質的な治療にはなりにくいのです。しかし、長年の研究から漢方を使えば免疫の暴走をくい止めることができると分かりました。病気は患者から学ぶことにつきるということです。
 
 ──免疫の暴走を漢方で抑制できるというエビデンス(医学的根拠)を得たのはいつ頃ですか。
 
 本間 北大にいる頃から漢方が免疫系の病気に効くということは分かっていました。ただ、漢方は一筋縄ではいかないもの。僕は新患なら少なくとも1時間かけて診てきました。脈や舌、体格、お腹の状態から家族構成、「昨日家族とどんな話をしたか」など相当切り込んだ会話をする。患者の家庭環境や生活環境など背景にあるものを知らないと病気は治らないからです。その上で患者の体質や病態である「証」を診断し、それに従い漢方薬を投与します。膠原病といっても1人ひとり体質が異なる。それを見極めて漢方で体質を変えることから始めると言えば分かりやすいでしょうか。
 
 ──背景を探ると家庭環境や生活環境に疾患の原因が見えてくる。
 
 本間 実は家庭環境、生活環境が一番大きいのです。皆さん悩みを抱えており、それが根底にあり病気になる。まず、そこから切り込んでいかなければ。人間の多くはストレスを抱えて病気になる。これは現代医学的にも証明されています。ストレスがいかに人間の体を蝕むか。認知症もストレスが危険因子とされており、“人間は脳から病気をつくる”のだと痛感しています。
 
 ──だからカウンセリングをしっかり行なう。
 
 本間 漢方の力というのかな。僕の場合は「脈」が助けになっている。2015年に血圧測定では血圧計で測るより脈で測定する方が正確だと書いて日本東洋医学会の雑誌に投稿したら、査読した血圧の専門家から猛反発されました。しかし、科学的論拠に基づいていたので、それ以上反論できなくなり、採択されたことがあります。
 

最近、和漢医薬学会に寄稿し採択された同氏の論文(原題:Effects of Kampo therapy on prognosis in patients with idiopathic interstitial pneumonia)

多くの患者の救いとなった北大前クリニック

患者から届いた「感謝の手紙」の数々

クリニックを支えたスタッフたちに囲まれて(3月31日夕)

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漢方専門では不可能な経営。患者からの手紙は自身の宝

 
 ──多くの“お弟子さん”を育てられましたが、誰かがここを継ぐという流れにはならなかった。
 
 本間 後継者の候補が出たことはあります。ただ漢方をメインに医院を経営するのは基本的に難しい。漢方外来をやっている大学病院は全国にありますが、どこも赤字部門という位置づけ。それを他の診療科の黒字でカバーしているのが実情です。
 クリニックを手伝ってくれた医師たちにもそれぞれの家庭、人生がある。私がやってきたボランティアのような医療を押し付けることはできません。
 
 ──そのような中、皆さんで20年もの間、患者を診てこられた。
 
 本間 いつの間にか「漢方を勉強したいなら本間の所へ行け」と言われるようになり、私の出身である北大を中心に札幌医科大学や旭川医科大学、遠くは琉球大学などの医師たちが非常勤で来てくれました。見学などを含めると優に100人は超えていると思います。
 ここに集ってくれた医師たちはみんな真面目で、僕と患者のやり取りがすごく勉強になると言って長く働いてくれました。
 
 ──患者からも惜しむ声が寄せられていると聞きます。
 
 本間 「医学、医療は医師や研究者のためにあるのではなく100%患者のためにある」というのが私の哲学。この考え方は2500年も前に古代ギリシャの医者、ヒポクラテスがプラタナスの木の下で弟子たちに毎日諭していたとされる内容に即したもの。私が若い頃、彼が活躍していたギリシアのコス島を訪れた際、この“ヒポクラテスの誓い”を知り、衝撃を受けました。
 とはいえこの哲学も日本ではなかなか上手くいかないのが現状です(笑)。人間のみみっちい根性が全てをダメにしているように思えてならない。だから2017年に上梓した『特発性間質性肺炎(IIP)のすべて』(西村書店)では「医学、医療は患者を治すためにある」と書きました。人間として医師と患者は対等。だから僕は「患者さん」や「患者様」という言葉は使わない。
 閉院を決めてからその多くの患者から感謝の手紙をたくさんいただきました。本当に有難いし、医者として人さまのために良いことをしてきたのだと自信が付きました。患者からの手紙は私の宝物です。
 


 
 ──こちらでの患者は慢性疾患が多かったと思いますが。
 
 本間 はっきりした原因が分からないのに具合が悪い、いわゆる不定愁訴を訴える患者が非常に多かった。話を聞くと夫や家族と会話がないと言い出したり、脈を取るとそれだけで涙を流したりと。ただ泣くということは苦しみを吐きだすことなので半分病気が治ったようなもの。そういうシーンに慣れている看護師がティッシュを持って「はいどうぞ」と(笑)。
 
 ──以前、慢性疾患と腸の関係にも言及されていました。
 
 本間 僕の発想では生物学的に腸が分化したものが脳なので、「腸ほど大事なものはない」と主張してきました。ここで多くの症例を診るうちに、さまざまな病気の根っ子に腸が関係していることが分かり、腸内環境を良くすれば多くの病気は治るという考えに達しました。最近は遺伝子解析技術などが進み、腸と脳が影響し合っていることが証明され、腸内細菌や腸活という言葉も聞かれるようになりました。
 
 ──今、世界を不安に陥れている新型コロナウイルス感染症に漢方は効きますか。
 
 本間 インフルエンザには麻黄湯という抗ウイルス作用のある漢方薬が効くので、新型コロナにも漢方は有効ではないかという感触を持っています。インフルエンザの治療にはタミフルなどの抗ウイルス薬が使われますが、副作用が強いので僕はできれば使いたくない。
 
 ──新型コロナの治療に漢方が試されたという話は、あまり聞こえてこないですね。
 
 本間 漢方は元々医療の中で傍流なので(笑)。でも、やってみる価値は大いにあると思います。
 
 ──閉院後もご自分のペースで患者さんと接する場をつくっていただければ。
 
 本間 クリニックは閉めますが、一段落したら何か新しいことに取り組みたいですね。勉強会や講演会などで若手を指導して欲しいという声もあります。皆に「年甲斐もなく」と言われそうですが(笑)。
 
 ──今後も違った形での活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
 
 

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