カテーテルでの低侵襲手術で万全を期す弁膜症の治療体制
札幌心臓血管クリニックが導入した僧帽弁の最新治療「マイトラクリップ」

2019年8月号

マイトラクリップで豊富な臨床経験を持つ八戸医師

(はちのへ・だいすけ)札幌市出身。2004年旭川医科大学医学部卒業。札幌東徳洲会病院、湘南鎌倉総合病院などを経て2015 年から医療法人札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック勤務。入職後に忠南国立大学病院(韓国・光州)、サン・ラファエル科学研究所コロンブス病院(イタリア・ミラノ)に留学。現在、循環器内科科長、ストラクチャーセンター長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本心臓血管インターベンション治療学会認定医、日本再生医療学会認定医、日本感染症学会感染管理医師。41歳

Medical Report

循環器分野における全国屈指の治療拠点として知られる札幌心臓血管クリニック(札幌市東区・道井洋吏院長)。医療法人札幌ハートセンターの藤田勉理事長が全体の指揮を執る同病院がこのほど僧帽弁閉鎖不全症をカテーテルで治療する「マイトラクリップ(MitraClip)」を導入した。昨年4月に保険収載されたマイトラクリップでは、心臓の弁が閉じにくくなり血液が逆流する症状に悩む患者に新たな治療の道を開くことが期待され、すでに導入されている大動脈弁狭窄症の最新治療「TAVI」に加えて同病院の弁膜症治療がいっそう強化された格好だ。札幌心臓血管クリニックの循環器内科科長でストラクチャーセンター長を兼任する八戸大輔医師にマイトラクリップのメリットや今後の抱負を訊いた。(6月17日取材)
 

心臓の内部と僧帽弁(右上)のイメージ図

僧帽弁の腱索が切れて血液が逆流する様子

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高齢者に多い代表的な弁膜症

 
 札幌心臓血管クリニックでは6月上旬からマイトラクリップ治療を開始。初症例となった僧帽弁閉鎖不全症の70代男性患者は手術後、順調に回復し、QOL(生活の質)が劇的に改善されているという。
 では、この僧帽弁閉鎖不全症とはどのような疾患なのか。
 心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋がある。僧帽弁は左心房と左心室の間にあり、形状がカトリックの司教が使う司教冠に似ているというのが名前の由来だ。この僧帽弁は肺から左心房に流れてきた動脈血を左心室に送り出し、左心房に戻らないよう心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりする。僧帽弁閉鎖不全症は僧帽弁が傷ついたり心臓が拡大して閉じにくくなったために血液が逆流する疾患だ。
 逆流により左心房が拡張し、全身に送り出す血液が減少するため心不全状態となる。初期では自覚症状はないが、重くなると疲労感や作業時の息切れ、呼吸困難、むくみなどが出る。また心房細動という不整脈の合併症状を引き起こすこともある。
 この僧帽弁閉鎖不全症には「器質性」と「機能性」の2種類がある。器質性はリウマチ熱などで僧帽弁の弁尖に異常が起きたり、腱索の断裂などで僧帽弁が左心房側に飛び出てしまい血液の逆流が生じるもの。一方、機能性は何らかの原因で心臓が肥大、僧帽弁輪が大きくなったり弁尖が引っぱられることで接合不全が生じ血液が逆流する。
 治療を担う八戸大輔医師がマイトラクリップのメリットを説明する。「我が国では、僧帽弁閉鎖不全症は75歳以上だと10人に1人が罹患していると言われ、高齢者に多い疾患です。高齢で体力が落ちている人をはじめ肺や腎臓の機能が低下しているケース、脳梗塞など併存疾患がある患者さんなどは外科手術(僧帽弁形成術)のリスクが高いと考えられます。このため、これまでは器質性の僧帽弁閉鎖不全症で約半数、機能性に至っては約16%しか手術が行なわれてきませんでした。しかし、この僧帽弁閉鎖不全症は弁膜症の中で一番多い病気。高齢化の進展に伴って今後さらに増えてくることが予想されます。こうした中でマイトラクリップ治療が保険適用になったのは、患者さんにとって大きな朗報と言っていいでしょう」
 治療に当たっては、事前に経食道エコー検査を行ない僧帽弁の位置と状態を詳細に把握。全身麻酔をかけた状態で太ももの付け根の静脈に針を刺し心臓までカテーテルを進め、右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に穴を開けて左心房に移動する。ここから再び経食道エコーによる画像を頼りに場所を確認しながらカテーテルの先にあるクリップで僧帽弁の前尖と後尖を挟み、逆流を防ぐ処置をする。
 ただしこの治療の適応になるには、次のような条件を満たす必要がある。心臓の機能評価指標のひとつである左心室駆出率(くしゅりつ)が30%以上であること(正常値は65%以上)、症状がある高度僧帽弁閉鎖不全であること、開胸しての外科手術が困難なケースなどだ。従来の僧帽弁形成術のように胸を大きく切開したり人工心肺を使わなくても済むので体への負担が少なく入院期間が短いのが大きなメリットだが、当然ながら「外科手術が嫌」という理由だけでは適用されない。
 治療の実施に当たっては、厳しい施設基準を満たす必要がある。循環器内科や心臓血管外科の専門医や経食道エコーの有資格者ら専門スタッフが複数いることやカテーテル治療や外科手術の実績を踏まえて、日本循環器学会などが治療実施施設として認定する。
「マイトラクリップ治療では経食道エコーが重要な位置を占めますが、当病院にはその道のスペシャリストがいます。その医師が画像で割り出した適切な位置を目指し、我々が1ミリ、2ミリ単位でずらしながらクリップを挟んでいく。まさに“チーム力”が問われる治療ですが、当病院では、同じ弁膜症の分野で導入している大動脈弁狭窄症のカテーテル治療「TAVI」でのチーム医療が確立されており、安心してもらっていいと思います」(八戸医師)
 

マイトラクリップの装置全体(写真下の白い先端がクリップ)

「患者第一」を掲げる藤田理事長

心臓の内部と僧帽弁(右上)のイメージ図

僧帽弁の腱索が切れて血液が逆流する様子

マイトラクリップの装置全体(写真下の白い先端がクリップ)

「患者第一」を掲げる藤田理事長

開胸手術が困難な患者に朗報

 
 冒頭に記したように6月上旬、札幌心臓血管クリニックでマイトラクリップ1例目の治療が行なわれた。この男性患者は、手術前は自力で10m歩くのもやっとだったが、2つのクリップを留め置く処置をしたところ、血液の逆流が大幅に改善されたという。
「現在、この患者さんは普通に生活しており、自転車も漕げるようになったと喜んでいました。薬もどんどん減っています」(八戸医師)
 6月中旬には2例目の治療も実施。患者は80代の女性で器質性の僧帽弁閉鎖不全症を患っていたが、高齢ということに配慮しマイトラクリップによる治療を選択した。
「患者さんが元気で手術に耐えられるようであれば、外科的手術を第一に考えます。どんな治療が患者さんにとって最善かを体力や年齢、本人の症状を総合的に勘案しながら決めていく必要があります」(同)
 マイトラクリップ治療の責任者である八戸医師は、2017年2月から1年間イタリアに留学。現地の大学病院でマイトラクリップやTAVIなどの先進医療を学んできた。マイトラクリップでは50症例以上の経験を持つスペシャリストだ。
「イタリアでは10年ほど前からマイトラクリップ治療が行なわれており、術式としての安全性は確立されていると言っていい。術中にどうしてもクリップで弁を挟めなかった場合は開胸手術に切り替えることも稀にあります。ただ、私が研鑽した現地の大学病院ではマイトラクリップだけで約500症例の実績がありましたが、開胸手術が必要になったのは1例だけ。私が実施した症例では開胸処置が必要になったケースはありませんでした。心臓カテーテルの分野は日進月歩。これまで手術を受けられなかった患者さんの選択肢のひとつとして考えてほしい」
 治療後は早期離床が可能なため1週間程度で退院できる。ただ、体に負担の少ない治療法とはいえ患者によっては合併症の危険性はゼロではない。カテーテルやクリップを入れた際に血栓ができたり生じた気泡が脳の血管に詰まる「血栓塞栓症」、カテーテルを入れる時に心臓を損傷し、心臓の周りに血液が溜まり血圧低下や呼吸困難を引き起こす「心タンポナーテ・血胸」などのリスクもある。治療後30日以内の合併症の発生率が約15%から19%と言われていることも覚えておきたい。
 治療後の生活では野菜や魚、肉類、乳製品など栄養バランスのよい食生活を心掛け、摂取カロリーや水分、塩分は医師の指示に従うことが必要だ。お酒は心臓に負担をかけるため飲みすぎは厳禁。日常生活では適度な運動を心掛けたい。
 

常に最新・最善の医療を提供

 
 札幌心臓血管クリニックのルーツは、2008年4月に藤田理事長が開業した19床の循環器内科の単科医院だ。以後、急成長を遂げ、3年後の11年には74床の循環器専門病院として再出発し、翌12年には北海道で最も多く心臓血管外科手術を行なってきた道井洋吏院長が合流。マンパワーと施設を充実させた結果、昨年(18年)の統計で経皮的冠動脈形成術(PCI)の患者数は2363人に達し、国内最多の実績を誇るに至っている。心臓血管外科領域や不整脈治療などを合わせ、今では同病院は循環器分野で全国トップを走っていると言っていい。
 近年では弁膜症治療にも力を入れ、年間100例近く手掛ける大動脈弁狭窄症の最新治療「TAVI」に加え、今回のマイトラクリップがラインナップされた格好だ。
「私たちの病院は、全国トップレベルの技術と経験を持つ循環器内科医と心臓血管外科医、不整脈専門医が相互に連携して治療に当たる体制を敷いています。今回のマイトラクリップ治療もそうですが、心臓、循環器にかかわる病気の全てで最新、最良の治療を提供することをミッションと考えており、それを実行している自負があります」
 こう語る藤田理事長は、最新医療を先取りする一方で地域医療への支援にも力を入れていることでも知られる。道内各地の病院や診療所に「サテライト外来」を開設。循環器専門医不足に悩む過疎地の要請に応じて医師を派遣してきた。さらに現在は「100年続く病院」を目指して中国の医療機関とも連携。今後におけるグローバルな展開を視野に入れているところだ。
 藤田理事長と同じく旭川医大出身で札幌東徳洲会病院に勤務した経験がある八戸医師は「以前から藤田先生の薫陶を受け、医師として彼の背中を追いかけてきた」と話し、次のような抱負を寄せた。
「新しい技術を取り入れながら、どの治療が患者さんに最適なのかを見極めながら最善の医療を提供していきたい。今回マイトラクリップ治療を行なった患者さんのように健康を取り戻し、普通の生活を送れるようになったと笑顔を見せてくれた時に、何よりの喜びを感じます」
 
 


医療法人 札幌ハートセンター
札幌心臓血管クリニック
札幌市東区北49条東16丁目8番1号
TEL:011-784-7847
http://www.scvc.jp

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