さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックが免疫療法「キイトルーダ」を試験導入
乳がんなど再発がんに保険適応

2019年2月号

再発乳がんへの効果に期待を寄せる亀田院長

かめだ・ひろし
1980年北海道大学医学部卒業。同大第一外科入局、小児外科・乳腺甲状腺外科の診療と研究に従事。2001年麻生乳腺甲状腺クリニック開院。17年6月に法人名・施設名を医療法人社団北つむぎ会さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニックに改称。日本乳癌学会専門医、日本外科学会専門医、日本がん治療認定医機構暫定教育医・認定医。医学博士

Medical Report

日本女性の11人に1人が発症するという乳がんだが、治療法も進化を遂げている。新たな治療の柱として期待されているのが、免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」だ。2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授の発見を基にした「オプジーボ」に続く治療薬で、厚労省は12月下旬に血液がんを除く全ての進行・再発がんへの使用を正式に承認した。「患者にとって朗報」と歓迎する医療法人社団北つむぎ会「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」(札幌市北区)の亀田博院長・理事長に新たな治療のメカニズムと可能性を訊いた。(12月28日取材)

免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」※MSD社のホームページより

がんは、免疫細胞(T細胞)の攻撃にブレーキをかける仕組みを備えている

マンモグラフィーによる診断画像。左上の白い部分が乳がん組織

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がん組織を効果的に叩く、期待の免疫療法が身近に

 人間の体内にはウイルスや細菌などの異物を攻撃して排除する免疫細胞がある。異常な組織のがん細胞も、免疫細胞が排除するはずだが、なかなかどうして、がんは巧妙だ。「PD‐L1」というたんぱく質を出して免疫細胞の「PD‐1」と結合し、がん細胞に蓋を被せるような形で免疫の活動にブレーキをかける仕組みが備わっている。こうして免疫システムの攻撃を逃れたがん細胞は、増殖を続けていくことになる。
 この中で、免疫チェックポイント阻害剤は、先述したがん細胞がかけるブレーキを解除し、がんを攻撃できる状態に戻す画期的な治療薬だ。
 2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した京大の本庶特別教授と米国テキサス大学のジェームズ・アリソン教授は、長年の基礎研究から先述のブレーキ役となる物質を相次ぎ発見。この本庶特別教授の研究が、小野薬品工業から14年に発売された免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」の開発につながった。同薬は最初に皮膚がんの一種、悪性黒色腫の治療薬として保険収載され、現在は肺がんや胃がんなど7種類のがんに適応されている。
 現在、国内ではオプジーボに続き米国の製薬会社メルクから17年に出た「キイトルーダ」など5種類の免疫チェックポイント阻害剤が使われている。
 キイトルーダの使用は、これまで悪性黒色腫や肺がん、ホジキンリンパ腫、尿路上皮がんで承認されていたが、昨年末に朗報が届いた。厚労省は12月21日、血液がんを除く全てのがん治療への適応を承認し、使用を認めた。ただ対象となるのは進行・再発がん。標準治療が困難なケースで遺伝子検査で薬が効くことが分かった場合に限定されている。
 薬を使うかどうかは、まず、がん細胞の遺伝子を検査し、DNAの複製ミスを修復する機能が低下した「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-high)」の度合いを見る。MSIが高ければ、修復遺伝子が上手く働かないと判断され、キイトルーダによる治療対象となる。
 検査方法は、おおむね3年以内の手術標本で50%以上の乳がん部位の切片を用いて遺伝子検査にかける。検査費用は保険が使え、自己負担は7千円程度。治療は点滴で行ない、3週間に1回投与する。年間約1500万円弱の治療費がかかるが、保険の高額療養費制度が適用されるので、患者負担の上限は月に6万~8万円で済む。
 副作用としては重度の皮膚障害や間質性肺炎などが報告されている。また、甲状腺機能障害や橋本病、リウマチなど自己免疫疾患のある患者は、投与で免疫細胞の攻撃レベルが活性化するため持病が悪化する恐れがある。このため厚労省は投与に関するガイドラインを設けている。「乳がんに免疫チェックポイント阻害剤による治療の道が開けたことは大きな朗報で、当クリニックの患者も年明けに遺伝子検査を受ける予定です。今後、免疫治療は手術、抗がん剤、放射線治療に続く第4の治療法になることは間違いないと思います」(亀田院長)

近年高まりつつあるエコー(超音波)検査の重要性(写真は、さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック)

免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」※MSD社のホームページより

がんは、免疫細胞(T細胞)の攻撃にブレーキをかける仕組みを備えている

マンモグラフィーによる診断画像。左上の白い部分が乳がん組織

近年高まりつつあるエコー(超音波)検査の重要性(写真は、さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック)

トリプルネガティブにも生まれた治療の選択肢

 これまで諸外国や我が国で行なわれてきたキイトルーダを使った乳がんの治験では、進行が早く予後の悪いトリプルネガティブ乳がん(後述)にも効果が認められている。
「今後はキイトルーダがこのトリプルネガティブ乳がんにも保険適応になってもらいたいところです。この薬の長所は抗がん剤に比べ、効きはじめると効果が持続する点にあります。単独療法と併用療法があり、抗がん剤で叩きながら免疫療法を行なうと完全寛解率が高いことも報告されています」(亀田院長)
 乳がんに罹る日本女性は11人に1人といわれ、国立がん研究センターの予測では、2018年の乳がん患者は8万6500人。死亡者数は1万4800人といずれも増加傾向で、30歳から64歳では死亡原因のトップになっている。発症のピークは閉経前後の40代から50代だが、若年層や高齢者にも少なくない。
 乳がんは乳管の上皮細胞にできる乳管がんと、乳汁を分泌する腺房が集まった小葉にできる小葉がんがあり、乳管がんが9割を占める。さらに、乳管や小葉内に留まり血管やリンパ管に浸潤していないものを非浸潤がん、上皮から間質へ浸潤して血管やリンパ管から血液に乗り、リンパ節、骨、肺、脳などに転移する可能性がある浸潤がんに分類される。
 臨床的には、がん細胞の増殖が活発か大人しいか、ホルモンの受容体やがん細胞の増殖に関わるたんぱく質、HER2(ハーツー)が陰性か陽性か、がん細胞の増殖能力が高いかどうかにより次の5つ(サブタイプ)に分類される。
 ①「ホルモン療法が効いて、がん細胞の増殖能力が低いルミナルAタイプ」②「ホルモン療法が効き、がん細胞の増殖能力が高いルミナルBタイプ」③「ルミナルタイプとHER2陽性を併せ持ったタイプ」④「HER2陽性」⑤「ホルモン受容体もHER2も陰性のトリプルネガティブタイプ」。
 日本人の乳がんは、女性ホルモンが増殖に深く関わるルミナルタイプが多く、ホルモンの働きを抑制したりホルモンレベルを下げるホルモン療法がよく用いられる。HER2が過剰な陽性タイプの治療にはがん細胞を狙い打ちするハーセプチンなどの分子標的薬が有効だ。
 やっかいなのが、若年層に多く悪性度の高いトリプルネガティブタイプの乳がんだ。ホルモン療法も分子標的剤も効果がなく、再発・進行した場合は抗がん剤治療しかなかったが、今回キイトルーダが承認されたことで治療の選択肢が増えた。
 乳がんが増加する背景には、初潮年齢が早い、出産歴がないなど近年の女性の特徴があると言われ、また家族に乳がん患者がいる場合も、若い年代で発症する遺伝子性乳がんのリスクが高くなる。
「乳がんの発症には女性ホルモンが重要な働きをしており、最近は女性ホルモンによって増殖するホルモン感受性乳がんが増加傾向にあります。原因は、はっきり分かりませんが、体内で産出される女性ホルモンが影響していると思われます。また、牛乳に含まれる女性ホルモンや環境ホルモンなど外部からの影響も否定はできません」(亀田院長)
 女性ホルモンの影響をめぐっては、更年期症候群の改善に有効な「ホルモン補充療法」を長期間行なっている女性に発症リスクが高いことも指摘されている。

早期発見には、マンモとエコーの併用検診が有効

 人気漫画家、さくらももこさんが、昨年8月に乳がんのため53歳の若さで亡くなったことなどから、乳がん検診への関心が高まっている。このがんは早期発見、早期治療を行なえば9割が克服できると言われ、厚労省は40歳以上の女性を対象に2年に1度、マンモグラフィーによる検診を受けるよう勧め、各自治体は公費で助成している。
 乳がんの検診には、X線を利用したマンモグラフィー検査と超音波のエコー検査の2つの方法がある。自治体検診ではマンモ検診が主流だが、乳腺が発達している高濃度乳房の人はしこりが見えにくく、がんを発見できないことが多いうえ医療被曝のリスクもある。
 一方、エコー検査は高濃度乳房の影響を受けないため検診の精度が高い。医療被曝の心配がないので高濃度乳房の多い若年層でも安心して検査を受けることができるなどのメリットがある。
 東北大学や全国対がん協会が07年から11年かけて実施した大規模調査(J-START)では、マンモとエコーを併用したグループで、早期乳がんの発見率がマンモ単独の1・5倍になることが報告されている。札幌市はこれを参考に、この4月から自治体検診に試験的にエコー検診を導入する。対象となるのは、高濃度乳房の人で、同市の自治体検診の受け皿のひとつである「さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック」でも対応している。
 同クリニックでは、乳房を多方向から撮影し立体的に再構成する3Dマンモグラフィーによる断層撮影や、エラストグラフィ(超音波組織弾性影像法)を搭載した最新のエコーを導入している。エコーは安全性が高い反面、検査技術にばらつきがあり要精査率が高くなるなどの課題があったが、このエラストグラフィは、がん組織が良性の腫瘍に比べ硬いことを利用して、超音波でしこりの硬さを検出し画像化する。これにより、より正確な診断が可能になった。
 乳がんを早期発見するには、日ごろのセルフチェックも大切だ。もし、胸の違和感に気付いた時は、早めに専門医療機関で検診を受けるよう心掛けたい。


医療法人社団北つむぎ会
さっぽろ麻生乳腺甲状腺クリニック
札幌市北区北38 条西8丁目
TEL:011-709-3700
HP:http://www.asabu.com

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