医療法人元生会・森山領理事長に聞く「旭川ウェルネスセンター」の全貌
市内の病床を統合し、健康施設を併設「病気にさせない」予防医療を推進

2019年1月号

旭川で親子2代にわたり挑戦的な地域医療に取り組む森山理事長(11月19日、森山病院で)

もりやま・りょう
1954年旭川市出身。旭川北高、杏林大学医学部卒業。旭川医大整形外科、札幌医大麻酔科、旭川赤十字病院を経て85年、医療法人元生会森山病院理事長に就任。北海道病院協会理事、旭川日英協会会長、FMりべーる(旭川シティネットワーク)代表取取締役社長、日本棋院旭川支部長

Medical Report

旭川で森山病院(172床)などを運営する医療法人社団元生会(森山領理事長・64)が手がける複合施設「旭川ウェルネスセンター(仮称)」の建設工事が始まった。予防医療を大きなコンセプトに掲げ、グループの拠点である森山病院を移転新築するほか健康関連施設を併設する大事業に込めた思いと狙いとは何か。地域医療の維持と再生のために元生会が描くビジョンとともに、来秋の消費増税を前に医療界が抱える課題や我が国の社会保障政策についても提言していただいた。(11月19日取材)
 

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

旭川初の医療ベンチャー

 ──さっそくですが、新施設建設の今後のスケジュールは。
 森山 11月15日に旭川ウェルネスセンター(仮称)の条件付き一般競争入札を行ない、最低札だった大成建設と契約を結びました。建設予定地は旭川駅南口に広がる北彩都地区で、川の近くにあり景色も良い。ボーリングで地質調査をしましたが、地盤が固いことが分かり懸念事項はありませんでした。
 12月中旬に着工し、竣工は2020年5月末日、オープンは7月1日を予定しています。その翌月から東京五輪が始まるというタイミングです。
 ──その旭川ウェルネスセンターの概要を聞かせてください。
 森山 森山病院を中核に健康関連施設を組み合わせた複合施設で、総工費は約60億円を見込んでいます。
「病気にさせない」をコンセプトに病院には予防医学の拠点としての機能も持たせ、スポーツ施設や健康食にこだわったレストランなど民間の事業者と一体となってヘルシーライフを提案します。また、将来の医療ツーリズムも視野に入れる計画です。
 新病院のベッド数は現在の森山病院の172床と法人傘下の愛生病院の60床を合わせた計232床。愛生病院で手掛けていた脳神経内科も新病院に移動させます。
 ──新病院建設への思いを。
 森山 ひとつは将来へ向けての布石です。これからの医療は、従来のように病気を見つけ治すだけでなく、予防医学にどう取り組むかがキーワードになってきます。医療費の抑制にもつながり、国もこの分野にいっそう力を注いでくるでしょう。
 現在の森山病院は先代(創業者の故・森山元一氏)が昭和36年に新築したものですが、当時は旭川初の大型ビルディング病院として話題になりました。
 今回私が手がける予防医療を標榜するウェルネスセンターもまた、旭川初ということになります。
 ──フロンティアスピリッツを忘れない挑戦を親子2代で続けている。息子さんたちも医療の道に進まれているとか。
 森山 長男が外科医で北見の病院で修業中、次男も医学部に進みました。後を継いでくれるかどうかは分かりませんが(笑)、その点では恵まれていると思います。
 ──ところで、2018年はどんな1年でしたか。
 森山 新病院建設に向けての事業が始まり、社長を務めている地域コミュニテイFM(旭川シティネットワーク・通称FMりべーる)も開局25周年を迎え、何かと節目の年だった印象です。
 それとやはり9月6日に起きた胆振東部地震ですね。旭川は災害の少ないまちですが、ここもブラックアウトに陥り、災害への備えをあらためて思い知らされました。
 ──ブラックアウトが起きた時、病院やFM局は。
 森山 病院には自家発電装置があるので、停電の影響はほとんどありませんでした。地震発生が未明でしたのでFM局には職員がいませんでしたが、幹部に連絡し可能な人は出勤するよう指示しました。自家発電で災害情報を流し続けましたが、軽油がすぐに無くなるので皆で燃料を運び、中継局にはポータブル発電機を持ちこみ対応しました。
 ──停電が復旧したのは。
 森山 翌日の午前中です。その間、市内各地から寄せられた店舗の営業情報や市役所からのお知らせなどを中心に放送を続けました。
 その後に「暗闇で心細かったが、旭川の人が語りかけてくれるので心強かった」といった感謝のハガキやメールがたくさん届き、コミュニティFMの存在価値や役割を市民に認識してもらうことができました。4年前に無報酬で社長に就任しましたが、地域貢献の一環として引き受けてよかったと思っています。
 

市内中心部を流れる忠別川のほとりに立地する「旭川ウェルネスセンター」

 

「病気予防と健康」が新施設のキーワード

市内中心部を流れる忠別川のほとりに立地する「旭川ウェルネスセンター」

 

「病気予防と健康」が新施設のキーワード

「医療費増大亡国論」の嘘

 ──地元の旭川市長選では西川将人氏が4選を果たしました。医療をはじめ市政の課題については。
 森山 大きな課題としては、経済の停滞と急激な人口減少があります。西川市長は新庁舎計画や旭川大学の公立化などを公約に掲げていますが、財政難の中でこれだけお金のかかる事業をやって大丈夫なのかと。加えて心配なのが毎年10億円以上の赤字を出している市立旭川病院の問題です。継続して経営改善に取り組むとしていますが、現状を見る限り累積赤字の解消は困難と言わざるを得ません。
 厚労省は人口12万人に対して基幹病院はひとつあればいいという方針。それに対して、人口34万人の旭川は旭川医科大学病院、市立旭川病院、赤十字旭川病院など公的病院が5つもあり、明らかに過剰です。
 これらの公的病院同士で患者を取り合い、それが民間医療機関の経営を圧迫しています。救急医療に十分に対応してこなかったところが収入増のために救急患者を受け入れるようになったり、膨大な数の職員を抱えながらベッドを稼働させていなかったり、働いても働かなくても高い給料がもらえるような環境だったりする。
 ──そういう中にあって、予防医療をコンセプトに掲げる森山病院の存在意義は。
 森山 本来、公的病院は民間病院には到底できない最先端医療を担うべき。そして民間の医療機関は地域のプライマリケア(総合・初期診療)を担う責務があります。この中に予防医療がしっかり位置づけられねばならない。加えて我々のような病院には、診療所と公的病院をつなぐ役割も求められています。
 ──日本は、国民皆保険をはじめ世界に誇れる医療制度を構築してきました。
 森山 「アメリカで盲腸の手術をすると200万円近くかかる」という話をすると驚く人が多いのですが、確かに我が国の皆保険制度は素晴らしいものがあります。しかし、そう安心していられない時代になってきました。
 2019年10月に消費税率が10%に引き上げられ、5兆6千億円の増収が見込まれています。しかし、国は増税分を教育無償化などに充てる方針で社会保障費に回せる財源はほとんど生まれないでしょう。
 私は高齢者が急増する中で社会保障費が切り捨てられることに危機感を持っており、最終的には国民にしわ寄せが来ると思います。この中で強調しておきたいのは、日本の医療費は世界と比べると決して高くないという事実です。
 ──「医療費増大亡国論」に以前から異を唱えておられる。
 森山 イギリスやドイツ、フランスは日本より何倍も医療費を使っていますが、国が破綻することはありません。日本の医療費はOECD(経済開発協力機構)の加盟国中、対GDP比率で最下位であることを知る国民は少ないでしょう。しかも「医療費40兆円超え」と言われても、その多くを社会保険や国民健康保険に加入している我々が保険料、窓口負担として支払っている。ここをきちんと説明しないと、国が全額を負担しているように誤解されてしまいます。
 ──財務省とマスコミが医療費を悪者にしている感が拭えません。
 森山 財務省は、国の借金が1000兆円を超えて大変だと言っていますが、本来は資産もこれだけあるといったバランスシートの中で語られるべき話です。しかも国の借金といっても債権の大部分を国民が国債として持っているわけで、いわば身内の中での貸し借りにすぎません。 財務省は既得権益や天下り先を確保するために、国民の不安を煽り増税を推し進めていると言われてもしょうがないでしょう。
 

将来にわたり地域医療に貢献

 ──医療界のトレンドで注目している流れは。
 森山 期待しているひとつはiPS細胞の活用です。これは我々医療者にとって最大の武器になると思います。京都大学でiPS細胞から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植する治験が始まりました。この病気で悩んでいた患者さんが良くなったら嬉しいですね。細胞をあちこち入れ替え、若返りを図るといった使い方は倫理上の問題が出てきますが、再生医療で救ってあげたい患者さんは沢山います。
 ──その他の点については。
 森山 懸念しているのは来秋の消費増税です。税率が8%から10%に引き上げられたら、多くの医療機関が経営悪化に陥り廃業に追い込まれるところも出てくると思います。
 なぜなら、患者さんは病院の窓口で消費税を負担していないからです。それに対して、病院は薬品や医療材料、医療機器など購入するもの全てに消費税を支払っています。
 小売業であれば、消費者から受け取った消費税から仕入れにかかる消費税を差し引いて納税しますが、医療機関は患者さんから消費税を取れないので、税負担を転嫁する先がありません。診療報酬が下がっているのに消費税だけが上がれば、病院経営はますます苦しくなるでしょう。市立旭川病院では赤字が現在の10億円から15億円に増えるだろうと言われています。
 そういう意味で、今回の移転新築はぎりぎりのタイミングでした。これから新しいステージをつくり、地域医療に貢献するために頑張っていきたいと思います。
 ──本日はありがとうございました。今後の活躍を期待しています。
 


医療法人元生会 森山病院
旭川市8条通6丁目左10号
TEL:0166-22-4151

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

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道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
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