肺がん治療の道内最大拠点として最適で最先端な医療を患者に提供

2018年7月号

長年に亘る呼吸器内科医としてのキャリアを還元したいと語る小場院長

(こば・ひろゆき)オホーツク管内紋別市生まれ。1979年札幌医科大学医学部卒業、同大学第3内科入局。旭川赤十字病院呼吸器内科副部長、札幌医科大学第3内科助手、講師、助教授を経て2001年手稲渓仁会病院呼吸器内科部長、08年同病院副院長、17年手稲渓仁会クリニック院長、18年3月札幌南三条病院院長就任。日本内科学会認定医、日本呼吸器学会指導医・専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡指導医・専門医、札幌医科大学呼吸器アレルギー内科臨床教授、医学博士。64歳

Medical Report
社会医療法人北海道恵愛会(西田憲策理事長)が運営する札幌南三条病院(中央区・99床)。肺がん治療の分野で国内屈指の実績を誇る同病院の院長に、このほど呼吸器内科の名医として知られる小場弘之氏(前手稲渓仁会クリニック院長・64)が就任した。今回のトップ交代は、同病院で長年手腕をふるってきた関根球一郎前院長の呼びかけに応じて実現したもの。「呼吸器疾患、中でも肺がん治療に特化した専門病院として、患者さんに合った最先端の医療を提供していきたい」と意欲を見せる小場院長に今後の抱負や最新の肺がん治療について訊いた。(5月14日取材)

胸部X線写真で見つかった直径8㎝大の肺がん(左肺)

肺がんが気管支を閉塞している様子(左上)

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

手稲渓仁会から招聘された呼吸器内科のベテラン医師

 我が国の肺がんの年間死亡者数は7万人以上に上り、1998年に胃がんを抜いてがん死のトップになった。札幌南三条病院は、その肺がん治療をメインに取り組む全国的にも珍しい専門病院だ。
 一般的に肺がんは進行が早く、治りにくい難治がんのひとつだが、同病院は低侵襲の胸腔鏡手術を中心に治療を行ない、手術数は年間約230症例と道内トップ(2位は札幌医科大学付属病院で約170症例)。国内でもトップテンに名を連ね、内科治療においても幅広い化学療法で実績を上げている。
 今年3月1日付けで同病院のトップに就任した小場弘之院長は、札幌医科大学を卒業後、同大学第3内科に入局。呼吸器内科を選んだきっかけは、肺がんX線診断の第一人者で国立がんセンターから第3内科の教授として赴任した鈴木明医師の存在だったという。
 医局で呼吸器内科の臨床医としての指導を受けた小場院長は、旭川赤十字病院を手始めに札幌医科大学などで研鑽を積み、2001年に道内の拠点病院として知られる手稲渓仁会病院の呼吸器内科部長に就任。以後、患者の治療に当たる傍ら若手医師の育成にも尽力し、このほど札幌南三条病院の院長を退任した関根球一郎医師(現名誉院長)の後任として招聘されたものだ。
「数年前から関根先生から院長を引き受けてくれないかというお話をいただいておりましたが今回、手稲渓仁会病院呼吸器内科における後任の目途がついたので、お引き受けすることになりました。
 ご承知のように当院は呼吸器疾患、中でも肺がんに特化した専門病院ですが、実際に赴任して肺がんの症例数の多いことに驚きました」(小場院長)
 年間の肺がんの症例数は、先述した手術数に加え化学療法の実施数は延べ約1500件に上る。手術の8割には、背中と脇を3カ所程度3~5センチ切開し先端にカメラの付いた器具を入れ、モニターを見ながらがんを切除する「胸腔鏡手術」を導入、この方法は従来の開胸手術に比べ、切開する範囲が小さく、患者の体への負担が少なく術後の回復も早い。
 ちなみに同病院は、道内における胸腔鏡手術のパイオニア的存在として知られる。
 また、通院しながら化学療法を受けたいという患者のニーズを受けて「外来化学療法室」も設けるなど治療の幅を広げている。
 この春から舵取りを担うことになった小場院長は、
「常に最先端の肺がん治療を提供すると共に、肺がんの発症にも関係する肺気腫や間質性肺炎などの呼吸器疾患もカバーしていきたい」と語る。また、全国的に呼吸器内科医が不足する現状を踏まえ「呼吸器内科医は私を含め6人。規模的に余裕がないのが課題ですが、今後はチーム医療の強化を見据え、医師をはじめ看護師、エックス線技師などスタッフの育成にも取り組んでいきたい」と力を込める。

道内で他に先駆けて胸腔鏡手術を導入した

小さながんも見逃さないマルチディテクターCT

胸部X線写真で見つかった直径8㎝大の肺がん(左肺)

肺がんが気管支を閉塞している様子(左上)

道内で他に先駆けて胸腔鏡手術を導入した

小さながんも見逃さないマルチディテクターCT

肺ドッグなどで早期発見が治癒率を高める大きなカギ

 同病院が手掛ける肺がん治療の最前線について小場院長に解説していただいた。
 まず肺がんは転移しやすく悪性度の高い「小細胞がん」とそれ以外の「非小細胞がん」の2つに大別される。患者の8割以上を占めるのが後者の非小細胞がんで、これには「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つのタイプがあり、最も多いのが腺がんだ。
 腺がんは肺の末梢部に発症し、自覚症状が出にくく女性に多い。一方、扁平上皮がんは肺の入り口にでき60歳以上の男性に多く発症する。タバコの影響を受けやすいのは扁平上皮がんで、腺がんはその影響は比較的少ないとされる。
 腺がんを始めとした非小細胞がんは、早期であれば手術が標準治療となる。人間の右肺は上、中、下の3つ、左肺は上、下2つの肺葉に分かれており、通常の手術では、がんのある肺葉ごと切除することが多い。
 一方、小細胞がんは進行が速く、見つかった時にはすでに他の臓器に転移していることが多く、化学療法あるいは化学療法と放射線の併用が標準治療となる。
 腺がんや扁平上皮がんなど非小細胞がんの手術のほとんどは、先述した胸腔鏡で行なうという。
「早期の腺がんは胸腔鏡手術を行なえば、かなりの率で治癒する可能性があり、5年生存率は80~90%です。ただ腺がんは自覚症状が出にくく、通常のX線ではチェックしにくい。ある程度の年齢になったら肺ドックでのCT検査をお勧めします」
 同病院では、極めて薄いスライス状に肺の断層を撮影できるマルチディテクターCTをはじめ、初期のがんを発見できるPET検査(陽電子放射断層撮影)も導入。CT検査を同時にできるPET/CTも備えている。

注目の「オプチーボ」などの新薬も積極的に臨床に導入

 従来の抗がん剤に代わる治療薬として10年ほど前に登場したのが、分子レベルでがんの増殖を抑える分子標的治療薬ゲフィチニブ(商品名イレッサ)だ。
 このゲフィチニブは、手術不能もしくは再発した非小細胞がんに対して用いられる。がんの増殖を促す特定の遺伝子を持つ細胞に効き、正常な細胞には影響しにくいため、従来の抗がん剤に比べ効果が高く副作用も少ないとされる。特定の遺伝子を持つ肺がんに効果が高いため腫瘍の組織や細胞を調べて、標的とする遺伝子が陽性であるがんに投与する。
「分子標的剤の副作用としては約8割に湿疹などの皮膚症状が出ますが、抗がん剤に比べ問題となる重篤なものではありません」
 従来の抗がん剤のように点滴でなく、飲み薬なので治療がしやすいというメリットもある。ただ、この治療薬は使い続けているうちに耐性ができ、1年ほどで効かなくなってしまうことが多い。
「治療を始めて1年経過したら組織や血液を調べて、耐性ができていたら(耐性の遺伝子に合う)他の分子標的剤を使う方法も開発されています」
 さらに外科手術、化学療法、放射線治療、分子標的剤に続く治療法として注目されているのが、免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(商品名オプチーボ)だ。
 人間には体内に入った最近やウィルスを排除する免疫機能があるが、ウィルスなどを排除した後も免疫が高まった状態のまだまと正常な細胞まで攻撃する怖れがある。このため、体内には免疫を抑制する「免疫チェックポイント」という機能が備わっている。
 ニボルマブは、この免疫チエックポイントに作用し、免疫抑制を解除しがん細胞への攻撃を高める働きがある。現在、日本では悪性黒色腫、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、非細胞がんの腺がんと扁平上皮がんに保険が適用されている。
 適応となるのは、末期の肺がんで他の部位への転移のある人や手術後に再発した人などだ。最近はペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)という新しい免疫チェックポイント阻害剤も出てきた。ニボルマブは2週間に1度、ペムブロリズマブは3週間に1度点滴で治療する。
「肺がん治療は日進月歩。新薬の開発でひと昔前までは治療困難な患者さんにも薬が効くようになりました。ただ、注目されている免疫チェックポイント阻害剤にしても全ての人に効くわけではなく、有効なのは30%程度で副作用もあります。最近はこの阻害剤と抗がん剤を併用した方が治療成績が良いという話もありますが、現在は模索段階で研究の蓄積が必要です」
 実際には免疫チェックポイント阻害剤が効いているのに、一時的にがんが大きくなる「偽増悪」などの現象が見られることもある。
「いろいろな新薬が開発されていますが、その薬が実際に効いているかどうかを臨床現場で判定することは容易いことではありません。既存の抗がん剤、そして免疫チェックポイント阻害剤などの新薬をクロスオーバーしながら試行錯誤を繰り返し、その人にとっての最適解を探す必要がある。肺がんは専門家でなければ治療できない時代になっているのです」
 胸腔鏡など低侵襲な手術や新薬の登場で、肺がんの治療は正常細胞にダメージを与えず、がん細胞だけへの攻撃が可能になってきた。患者一人ひとりの状態にあった最新の肺がん治療に取り組む札幌南三条病院の今後に注目していきたい。


社会医療法人北海道恵愛会 札幌南三条病院
札幌市中央区南3条西6丁目4の2
TEL:011-233-3711

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