アジアで最大、百年続く病院へ 4度目の大規模拡張計画が始動

2018年6月号

「何かあったら電話を」と患者全員に自分の携帯番号を伝えている藤田理事長

(ふじた・つとむ)1961年12月4日稚内市生まれ。86年旭川医科大学医学部卒業。札幌徳洲会病院、国立循環器センターなどを経て90年札幌東徳洲会病院に奉職。同病院副院長兼循環器センター長、院長代行を歴任。2008年札幌心臓血管クリニックを開院。11年に医療法人化し、札幌ハートセンター理事長に就任。日本内科学会認定医、日本救急医学学会専門医、日本循環器学会専門医、日本医師会認定産業医、日本心血管インターベンション治療学会指導医。56歳

今年4月、開院から10周年を迎えた医療法人札幌ハートセンター(藤田勉理事長)の札幌心臓血管クリニック(札幌市東区、道井洋吏院長)。心臓カテーテル治療(PCI)の権威である藤田理事長、心臓外科手術で多大な実績を有する道井院長らが陣頭に立ち、あらゆる心臓疾患に対応する同院が、このほど国がまとめた集計でPCI治療実績が全国一と発表された。その札幌心臓血管クリニックが次の10年を見据えて動き出したのが通算4度目となる施設の大規模拡張計画だ。「アジアで最大、百年続く病院へ」と将来を見据える藤田理事長に同院の現在地と目指す未来の姿を訊いた。(4月23日取材)

藤田理事長のかけがえのないパートナーである道井院長

COOとして法人のガバナンス強化に取り組む佐藤医師

札幌ハートセンターが事業継承した宮岸医院(東区)

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

2千人以上のPCIに対応 世界も驚く74床の治療実績

 厚生労働省が集計するDPC(診断群分類包括評価制度)データに基づく2016年調査で、このほど経皮的冠動脈形成術(PCI)の患者数が2123人で国内最多という結果が公表された札幌心臓血管クリニック。1698人で2位だった千葉西総合病院(社会医療法人社団木下会・千葉県松戸市)を400人以上引き離しての“圧勝”だった。
「厚労省のDPCは患者数で集計して、当院がトップということになりました。民間の出版社なども同じようなランキング調査をしており、そちらの結果と比べると数字が随分違うと思われるかもしれません。ただ民間の調査は医療機関の自己申告による数値をまとめたもので、医療機関によっては患者1人当たりではなく、施術した箇所を1件としてカウントしたものを伝えているようです。その点、DPCに基づく集計は厚労省に申請する数値ですので、国が信頼を担保した調査結果といえます」(藤田理事長、以下同)
 札幌心臓血管クリニックと千葉西総合病院を規模として比較すると、病床数は札幌心臓血管クリニックが74床に対し千葉西総合病院は608床。実に8倍以上の開きがあるにもかかわらず、札幌心臓血管クリニックは400人以上も多い患者に対応していることになる。循環器専門病院と総合病院の違いを考慮しても、この数字は驚異的と言わざるを得ない。
 加えて同院は、心臓外科手術や不整脈アブレーション手術も合わせると、年間総手術件数は3000症例以上にものぼるという。これは1日当たり8件以上の手術を行なっている計算になる。まさに日々フル稼働と言っていい状況だ。
「海外での学会などに行くと、74床という規模でこれだけの数の治療を実践していることは、世界の医療関係者からも驚かれます。ですがこれもひとえに、開院から10年の間に培われてきたスタッフの日本人らしい勤勉さの賜物だと思っています」
 10年という大きな節目に先立ち昨年、藤田理事長は組織改革にも取り組んだ。
 幹部人事では、循環器内科の専門医でこれまで市立札幌病院の救命救急センターや北光記念病院、直近では時計台記念病院で手腕を振るっていた佐藤勝彦医師をCOO(最高執行責任者)兼理事として招き入れた。
「佐藤先生には診療のほかに、札幌ハートセンターの法人としてのガバナンス強化にも取り組んでいただいています。これまでは、どうしても私の個人商店的側面が否めませんでした。開業10年を機に、そこから脱却し、組織力を高めることしたのです」
 時計台記念病院からは佐藤医師のほかに、循環器内科医の原口拓也医師も新たな仲間に加わった。
「原口先生は元々九州の出身で、末梢血管の治療を勉強したいということで時計台記念病院に入られたそうです。その後、九州に戻ることも考えたそうですが、医療に対するロマンを提示する当院の将来ビジョンに魅力を感じて、ここで働きたいとおっしゃってくれました」
 一方、これまで不整脈治療の分野の責任者として尽力してきた鵜野起久也医師が退職。これに伴い鵜野医師がセンター長を務めていたハートリズムセンターも廃止された。一見すると不整脈治療部門が縮小したと思われがちだが、藤田理事長はその不安を払拭する。
「表立って不整脈への特化を打ち出してはいませんが、最先端の不整脈アブレーション治療が受けられる環境は変わっていません。鵜野先生がおられなくても専門医は充実しており、私自身も不整脈分野の治療に携わっていますから安心して受診してもらいたい」

第4期増築工事ではカテーテル室もさらなる整備が図られる

「札幌ハートセミナー」で講演する藤田理事長(4月7日午後、わくわくホリデーホール)

藤田理事長のかけがえのないパートナーである道井院長

COOとして法人のガバナンス強化に取り組む佐藤医師

札幌ハートセンターが事業継承した宮岸医院(東区)

第4期増築工事ではカテーテル室もさらなる整備が図られる

「札幌ハートセミナー」で講演する藤田理事長(4月7日午後、わくわくホリデーホール)

長年親交のあった宮岸医院を買収し地域医療の維持に貢献

 昨秋、札幌ハートセンターは内科・泌尿器科・透析治療の宮岸医院(医療法人社団北栄会、札幌市東区)を事業継承した。同法人と宮岸医院はかねてから良好な関係で、宮岸医院が人手不足に陥った際には無償で応援の医師を派遣したこともあったという。
 長年親交を温めてきた宮岸武弘院長が逝去したのは、買収の話がまとまり、いざ譲渡という直前の時期だった。
「宮岸医院とは今年9月に法人合併する予定ですが、当面は従来のまま運営していきます。19ある病床も札幌心臓血管クリニックに移すことは、今のところ考えていません」
 現在の宮岸医院は、札幌ハートセンターが手稲区で運営していた札幌心臓血管内科リハビリテーションクリニック(現在は休床中)の管理者だった髙橋由美子医師が院長を務めており、来院患者は増加傾向にあるという。
「宮岸医院に関しては、透析治療の権威である桑園中央病院の松井傑院長がとても熱心に協力してくれており、質の高い透析治療を行なっていただいています」
 もともと透析は循環器疾患と縁が深い治療だ。従来から札幌心臓血管クリニックと補完的な関係にあった医療機関を自らの傘下に置いた意義は小さくない。
 札幌心臓血管クリニックといえば最近、Jリーグ・北海道コンサドーレ札幌のオフィシャルパートナーになったことが話題になった。オフィシャルパートナーとは、石屋製菓やJAグループ北海道などのオフィシャルトップパートナーに次ぐランクのスポンサー。札幌ドームやアイングループ、カラオケのタカハシグループや北洋銀行などもオフィシャルパートナーだ。
「開院から丸10年を迎えられた感謝の思いを、社会貢献で形にしようと思ったのがきっかけです。そこで浮かんだのがスポーツ振興。北海道コンサドーレ札幌はチーム名も“道産子”に由来する北海道生まれのプロスポーツチームですから、そこを応援しようと決めました」
 観戦チケットはもとよりホームゲームでは大画面にクリニック名が紹介されるなどスポンサー特典は豊富だが、藤田理事長が思いも寄らなかった宣伝効果も期待できそうだ。
「後で知ったのですが、今のJリーグをサポーターとして支えているのは40代・50代が大多数だそうです。いわゆる『キャプテン翼』世代。そして心臓疾患が多いのもこれらの世代なんです。今後は循環器分野で不安を抱えるコンサドーレファンにも、当院の存在をお知らせすることができそうです」

“最後の大仕事”と明言するSCVCの第4期増築工事

「第4期工事は私が手掛ける上での最後の増築と考えています」
 札幌心臓血管クリニックの規模拡張に関する質問の冒頭で、藤田理事長はこう強調した。
「私としては、65歳まで全力で走り、その後は黒字をしっかり維持した状態で後進にバトンタッチしようと考えています。そうなると、今回の第4期増築工事は最後の大仕事のひとつということになります」
 増築の概要は、現在の建物奥側を約100m拡張する形で施設を建設。心臓リハビリセンターの新設やカテーテル室の増設、ICU(集中治療室)の規模拡張などが具体的な中身だ。そのICUについては、先述した札幌心臓血管内科リハビリテーションクリニックの11床を追加して大きくし、手術前と手術後でそれぞれ別室のICUを設ける考えだ。
 また、既存施設にも新たな手術室を追加し、そこに医療ロボット「da Vinci(ダ・ヴィンチ)」を導入する計画。全体の完成は約3年後を見込んでおり、この4月から設計作業に取り掛かり始めた。
「今後、具体的に動き始めるのは第4期増築工事ですが、札幌ハートセンターのトップとしてやり遂げておきたいことはまだまだあります。そのうちのひとつがサテライトクリニックの開設。札幌駅周辺と新札幌エリア、そしてニセコの3カ所に開設しようと計画を進めているところです。そして将来は100年続く病院へ、心臓血管分野でアジアにおけるナンバーワンの治療拠点になるのが私の夢です」
 開院10年を契機に、将来に向けて事業承継の意識が強まった印象の藤田理事長。だが、自身が口にした65歳という区切りの時期まで、トップランナーとしての全力疾走を緩めることはないだろう。


医療法人札幌ハートセンター
札幌心臓血管クリニック
札幌市東区北49条東16丁目8-1
☎ 011-784-7847

遅れる移転計画
課題山積み北海道医療大の北広島移転

厚真の砂利採取場で起きた産廃不法投棄問題を追う

江差パワハラ死問題で交渉決裂
道「因果関係」否定貫く

つしま医療福祉グループ 「ノテ幸栄の里」が新築移転
地域包括ケアの拠点として在宅生活を支援

目次へ

© 2018 Re Studio All rights reserved.